光の加減でセピア色に見える、サラサラとした癖のない髪。ゆっくりと瞬きをする、涼しげな切れ長の瞳。
 見つめれば見つめるほど、心音が速まっていく。


(でも、先輩は彼女がいるはずなのに、いいのかな……?)


 甘い空気を、そんな小さな疑問が破る。
 二人きりで、という意味ではなかったのかもしれない。他にも部員はいるのだし。


「白坂さん……」


 私の頬の辺りへ手を伸ばし、先輩が何かを言いかける。
 指先が頬へ届きそうになったとき――。


「こんな所でイチャつくなよ」


 刺々しい声で美術室に入ってきたのは、凝ったデザインのシルバーフレームの眼鏡をかけ、冷たい目をした千尋(ちひろ)先輩だった。

 私は慌てて柏木先輩から距離を置く。
 けれど柏木先輩は焦った様子は見せず、微笑みながら千尋先輩を振り返った。


「千尋、羨ましいって正直に言っていいんだよ?」
「阿呆か。こっちは彼女と別れたばっかりだっていうのに、見せつけるな」
「また別れたんですか?」


 呆れた私は思わず口を挟む。