思えば今日はホワイトデー。
 一ヶ月前に義理チョコを渡した記憶は、何となくある。わざわざ、そのお返しを用意してくれたなんて。


「ありがとうございます。嬉しいです」


 そっと受け取った私は笑顔でお礼を伝えた。先輩からもらった物なら、何でも嬉しいと思えてくる。


「――良かった。断られるかと思った」


 ホッとしたように先輩が小さく息をつく。


(え……?)

 先輩からのプレゼントを断るはずなんてないのに、と私は首を傾げた。



「白坂さん、今日は何を描くの?」
「私は……、今は特に描きたいものがなくて。悩んでいるところです」
「それなら、今度一緒に題材を探しに行こうか」


 柏木先輩はおっとりとした口調で提案する。


「題材、ですか?」
「そう。いろんな場所に行けば、刺激を受けて良い絵が描けるかもしれない」
「いいですね、私も探しに行ってみたいです」
「春休みでも良ければ、行ってみようか」
「はい。楽しみにしてます」


 頷いた私に向けて、嬉しそうに目を細め甘く微笑むものだから、頬がさらに熱を持つ。