気持ちを伝え合ったあと。離れるのが惜しくて、しばらく空や川を眺めていた。
水面にはキラキラとオレンジ色の光が反射している。
「――約束の、絵」
綺麗なグラデーションを作る空を隅々まで目に焼き付けながら、私はぽつりとつぶやいた。
「続きを早く、描かないと」
「結衣……。思い出してくれたんだね」
私たちは視線を合わせると、手をつないで先輩の家へ急いだ。
儚い夕陽が消えてしまう前に。
*
絵筆を握るのは久しぶりだった。
蓮先輩の家の広いバルコニーでイーゼルを立て掛け、約束の絵を描くことになるなんて想像もしていなかった。
まず、両想いになれたことが奇跡なのだから。
先輩の部屋で見つけた未完成の空の絵。
あれは、蓮先輩と私の二人の絵だったのに。
あのときは全く思い出せなかったのが不思議なくらいだ。
『完成したら、また見せてくださいね』だなんて他人事みたいに言って。どれだけ困らせたことだろう。
今までずっと、忘れていてごめんなさい。
その気持ちをこめて、先輩の描いた絵を汚さないように、慎重に色を乗せる。
私はプランターに咲く花を。
先輩は頭上に広がる空を見本にして。
厚みのある真っ白な紙に少しずつ命を吹き込んでいく。
左隣に座る蓮先輩は、パレットに淡い青や薄紫色を作ったり、丁寧に絵筆をすべらせたりしていた。
その横顔は真剣で、思わず見惚れているうちに艷やかな唇が目に入り、慌てて視線をそらす。
中学生のときに告白された時間も、空一面が夕焼け色に染まっていた。
断りの返事をしたあと、最後に先輩と……。
想像すると、燃えるように頬が熱くなった。