思い返せば、不可思議な点はいくつもあった。

 中学時代、誕生日に焼いてくれたチーズケーキ。
 彼女は僕と一緒に食べたことすら忘れていた。

 僕が本当は、甘い物がそれほど得意ではないことも。

 卒業前の告白をなかったことにされていたことも。

 あの空の絵の約束さえも……。


 自分に興味がないから、好きではないから、単純に忘れているだけなのかと思っていた。

 もしそれらが、真鳥朔哉の仕業なのだとしたら。
 どうして彼は、そして永野未琴は、結衣の記憶を奪うようなことをしたのだろう。

 結衣の様子について、永野未琴におかしな変化はないかと尋ねたとき、全く異常なしだと答えたはずだ。


『最近、白坂さんは……何かを忘れたりとか、そういうことが多くなっていない?』

『え? 健忘症とかそういうことですか? 全然、ありませんよ。いつもと変わらず、普通です』


 あれは、嘘をついて隠していたということになる。



『先輩の絵が好きです』


 結衣のあの言葉は、昔も今も言ってくれていたから。
 絵を好きだという記憶だけは残っているらしく。

 あの二人の真意がつかめない。