「真鳥とのことは、その……事情があって」
「……事情」


 不本意だったことを強調したつもりなのに、先輩の表情は硬いままだ。


 それは当然、仕方のないことで。
 不意打ちとはいえ、嫌なら真鳥のそばから逃げ出せば良かったのだから。


 ……そうしなかった理由は、なぜだか思い出せない。

 鈍い頭痛がして、何かに邪魔をされている気分だ。



 話を終わらせようとするかのように、蓮先輩が立ち上がり、淡い紫に染まり始めた空へ視線を向けた。


「暗くなってきたね。……送るよ」


 まだ先輩のそばにいたい気持ちはあったけれど。
 未琴の言葉を思い出し、そんな雰囲気になる前に帰った方がいいのかもしれないと感じた。
 だから素直にうなずき、部屋をあとにした。


 未琴が言っていた、三井先輩との噂が本当なのかどうか。
 これ以上、重い空気になるのは耐えられなくて、蓮先輩に確かめることはできなかった。