「ピアノ、すごく感動しました。特に最後の曲」
「僕も、最後の曲が一番心に残った」


 コンサートホールを名残惜しく出るさなか、私と先輩はお互いに感想を言い合っていた。

 私も全身全霊をかけて、一つの絵を完成させてみたい。そんな思いが沸き上がるほどの演奏だった。


「やっぱり、人の心に響く作品を創れるってすごいことですよ、ね……」


 言いかけた言葉が、途中で不自然に途切れる。
 ゾク……と寒気に襲われたかと思うと、また誰かに睨まれている感覚があった。

 前方を見ると、見知った人物――沢本君がこちらを見据えていた。
 偶然コンサートに来ていたわけではないなら、これはまるで、ストーカー行為。

 嫌な予感を振り切るため、彼から目をそらし、蓮先輩を見上げる。
 先輩は沢本君のことを知らないはずだから、特に変わった様子はない。
 内心焦っているのは自分だけ。


 “蓮先輩と触れ合っているときに、自分と関わりのある誰かと目が合えば。その人との記憶を思い出す……”


 ふと、最近気づき始めた一つの考えが、再び頭の中に浮かんだ。