気を取り直して、上質な紙に印刷されたプログラムへ視線を落とす。
 そこに紹介されているのは、綺麗な顔立ちをしたピアニスト、佐伯遼。
 白いシャツ、黒のスーツを着こなし、細身でスタイルが良い。
 タイプ的には蓮先輩と似ている。
 物腰柔らかで、繊細で。優しそうな雰囲気が写真からもにじみ出ていた。

 じっくりと経歴などの紹介文を読んでいたら、
「結衣って、こういう人が好み?」
 思わぬことを聞かれ、ドキリとする。

「別に好みというほどじゃないですよ、母が好きなだけで……。それに、母が言っていたんですけど、結婚してるみたいですし」
「そうなの? 既婚者なんだ」


 ほんの少し蓮先輩に似ているから、気になっただけ。
 私が言い訳を口にするより前に、開演を知らせるブザーが鳴り、いよいよコンサートが始まった。

 黒いスーツを纏った細身の男性――佐伯遼がステージに現れ、拍手の中、客席へ向け一礼する。
 優雅にピアノの前に座り、両手を軽く鍵盤へ置いた。