もう一度試してみたかったのに、真鳥はすでに背を向けて、仲間とボールを追いかけ始めていた。


「結衣? どうかした?」
「……あ。何でも、ないです」
「そう?」


 先輩の指がすっと離れていく。

 そういえば、さっき何か言いかけていなかっただろうか。
 詳しく聞き返すことはできず、今の出来事に思いを巡らせているうちに、自分の家に着いてしまう。


「じゃあ、明日のことはまた、あとで連絡するから」


 私の家まで送ってくれた先輩は、去り際に笑顔を見せた。

 蓮先輩がそんなふうに笑ってくれるなら。
 今はまだ、楽しまなきゃ。

 先輩が私から離れていくまで。


「……はい。私も、楽しみにしてます」


 別れのときが来るのは怖い。
 本当は、嫌われる前に逃げたい。

 でも、自分から先に離れる勇気はないし。先輩のそばにいたいという気持ちの方が大きかった。