――自分の体から抹消したいほどの出来事。
 そのほとんどは、自分の頭の中に封じ込められているはずだけど。
 私だけが忘れたからといって、他の人の記憶から消えたわけではない。

 私以外の人が覚えている限り、その過去はなくならないんだ。


 破れた教科書。
 沢本君の冷たい眼差し。
 私の首にかけられた手。


 あの記憶の断片から、私はたぶん中学のとき、周囲から疎まれていた。
 もしくは、いじめられていたのだと思う。

 だから三井先輩は、そんな女と蓮先輩が一緒にいることに反対している。
 イメージを悪くして迷惑をかける――最悪、蓮先輩までもが嫌われてしまうからと。


 隣を静かに歩く蓮先輩は、どこまで知っているのだろう。
 まだ一緒にいてくれるということは、三井先輩から全てを聞かされてはいない……?


 もし、未琴や椎名さんにも私のよくない噂が耳に入ったら。きっと私のそばから去っていくだろう。
 蓮先輩や千尋先輩も、当然のように……。