「え、待ってた?」
「――あっ、すみません図々しくて」


 うっかり口走ってしまい、熱くなった頬を隠すために両手で口元を覆った。


「いや。結衣の本音を聞けたみたいで、嬉しいよ」


 そっと先輩の方をうかがうと、さっきまでの翳りはなく、私に向かって優しく微笑んでくれていた。

 もっと先輩の笑顔をそばで見ていたいな……

 そんな思いが浮かぶ。


 ベンチに座る私と蓮先輩の間は、子ども一人分空いていて。もう少し距離を縮めたいのに、その勇気がないのが悲しい。
 そんなことをしたら、先輩、驚くだろうな。
 嫌われたら困るので、もちろん実行はしない。

 『好き』と伝えてみたい気もするけど、今の関係が心地よいから、まだ私だけの秘密だ。


「今度の土曜日、午後から空いてる?」
「午後ですか? 空いてます」
「良かったらピアノのコンサートに行かない? 親からチケットもらってるんだ」
「ピアノ……行ってみたいです」