昇降口へと千尋先輩が早足に去り、薄暗い廊下には気まずい空気が流れる。


「ごめん、邪魔したかな」


 ためらいがちに確認する蓮先輩に、笑顔はない。


「いえ、全然邪魔じゃないです」


 むしろ助かりました。
 私が慌てて首を左右に振ると、先輩は安堵したように息をつく。


「千尋の代わりで悪いけど、今日は僕に送らせて」
「……お願いします」


 代わりだなんて、そんなことはないのに。

 それぞれの学年で靴を履き替えたあと、校舎の外を肩を並べて歩く。


「結衣。千尋と付き合うつもりだった?」

 目を合わせず、前を向いたまま蓮先輩が聞いてくる。


「――まさか。千尋先輩は私のことからかって、楽しんでるだけですから」

 でも正直に言うと、蓮先輩が止めてくれて嬉しかった。
 蓮先輩が間に入ってくれなかったら……流されて断りきれずに、付き合うことになっていた可能性が1ミリくらいはあった。
 千尋先輩は、蓮先輩が追ってくるのを見越していたのかもしれないけれど。