「あいつ、俺たちが二人で帰ること、もっと気にするかと思ったけど。全然気にしてなかったみたいだな」


 つまらないと言いたげに千尋先輩がぼやく。


「……そうですね」
「はぁ。仕方ないな」


 溜め息をついた千尋先輩が靴箱の手前で立ち止まる。
 私の方を振り返り、急に肩を抱いてきた。


「なっ、何ですか?」


 蓮先輩と同じくらいの背丈だから、私とはかなりの身長差がある。目線の高さはちょうど彼の肩先だった。
 驚く私の顔を覗き込むようにして千尋先輩は軽い口調で言った。


「俺たち、付き合ってみるか」
「…………は?」


 目を見開いたまま、固まる私。

 思えば千尋先輩は、眼鏡をかけているから一見真面目そうだけど、いつも彼女が途切れない人だった。
 今はたまたま、珍しく彼女がいないだけで。


「私を、次の彼女までのつなぎにしないでくださいね?」


 絶対に冗談だろうと思いつつ、文句を言ってみる。