彼はベストのポケットから青いカプセルをふた粒取り出す。ぎゅうっと握り締めて、その硬くて柔らかい感触にぞくっとする。
 こんなもので命を繋ぐ我が身が情けない。

「おはよう」

 いっそカプセルを握り潰してやろうかと考えていたら、背後から擦れたような低く重たい声がした。
 彼は、咳を堪えながら、わざとらしく溜め息をついてみせた。
 背後の男がくくっと笑った。

「おはようと言ったのに、お返しはそれか」
「毎日様子を見に来なくていい」

 彼は吐き捨てるように言い放つと、食堂のドアノブをひっつかんだ。男に一瞥すらくれず、引き開ける。ずずっと錆びついた音がした。

 ――まるで、俺の断絶魔みたいじゃないか。

 彼はカプセルをわざと手のひらから落として、つま先で蹴り上げた。
 ごほっと一際大きな咳が出た。咽喉の奥、肺の入口あたりが重たく軋む。疼痛が奔る。
 たぶん、いちばん人間らしい部分だからこそ痛むのだ。