「新山ってさ、並榎と仲良いの?」

 放課後、クラスの男子……阿部から話しかけられた。

「ほらお前さ、よく弁当持って保健室行ってるじゃん? あれ、多分並榎だろう? どうやって仲良くなったのかなって」

「仲良い……かは分からないけど、喋るよ。なんで?」

「いや、なんでって……」

 阿部は気まずそうに目配せをする。

「ほら、アイツってダブってるじゃん? だから保健室に通ってるわけで、俺たちも特に関わりないし、でもちょっと可愛いから、気にはなっているというか……」

 途中から、阿部の話が入って来なくなっていた。

「は? ダブってるって、並榎がか?」

「え、何お前知らないの? クラスで女子が噂して……ってああ、そうか。お前、最初の頃女子から思いっきり避けられてたもんな」

 憐れむように阿部が俺を見る。

 最初、というより今も避けてくる奴はいるんだが……そんなことはどうでもいい。

「ダブってるって、どうして?」

「よく知らないけどさ、アイツ、高校入試で学校全部落ちたんだよ。で、どこも入れなくなったから一年間留年してたって」

「……でもそれ、あり得なくないか?」

 うちの高校は、それなりに偏差値が高く名の知れた進学校でもある。

 大学受験ならいざ知らず、一年後にここに入学できる実力があるのに、高校留年ってのは考えにくい。

 それに通信や夜間とか、通おうと思えばいくらでも手段はあるわけで……。

 そんな俺の考えを見透かすように、阿部がその一言を言い放った。

「カンニングだよ。試験官にバレて、全部一発アウトだってさ」