「キャーッ! 変態よ!」
怒号とも悲鳴とも付かない絶叫を背に感じながら、俺はその場から逃げ出した。
事件は、体育の授業後に起こった。
男子の授業が早く終わったこともあって、俺はいち早く教室に向かっていた。
今日は日直だったので、書類を運んだり先生を呼びに行ったりする準備をしておきたかったのだ。
そこで、事件が起きた。
教室が女子の着替え場になっていることをすっかり忘れていた俺は、体育館で着替えを済ませた足で職員室に向かい、必要な書類を持って教室のドアを開けた。
するとそこは花園……ではなく、今まさに着替えんとする女子が俺のことを驚いた眼で見つめていた。
もちろん俺は慌てて閉めた。そして呼吸を整え、もう一度ドアに手をかけた。
で、冒頭の光景に至るわけだ。どう考えても俺だけが悪い。
勿論俺だってこんな真似したくなかった。
わざわざ自分から偶然を故意に変えるメリットがないことなんて百も承知だ。
だからこれは、何というか、もう癖のようなもので。
脳が脊髄反射レベルで俺に「二回やれ」と語りかけてくるのだ。
職業病になるほど染みついた変態性とは、我ながら業が深すぎる。
しかし考えようによっては、一度の失態を偶然のままあやふやにしておくより、二回やって名実ともに加害者となることで、相手も俺を糾弾しやすくなるという側面もある。
俺も不慮の事故で責められるよりは、しっかり罪の意識を持った上で裁かれたいのだ。
断じて女子の着替えをしっかり見たいなんて下心があったわけではない。
……イヤ、ホントニネ。
「さあ、追い詰めたわよ。この変態」
逃げ場をなくした俺に、追いかけてきた陸上部の女子が詰め寄ってくる。
「覚悟は、いいわね」
俺が何かを発するより先に、女子の右ストレートが頬をド直球でえぐり取った。
「ふぐうっ!」
情けない声を上げて崩れ落ちる俺を、ゴミでも見るかのように女子が一瞥する。
が、俺にはまだ、やらなければいけないことが残っていた。
「に、二回……」
「は?」
立ち去ろうとした彼女の足が止まる。口に血の感触を味わいながら、振り絞るようにその言葉を発した。
「一回殴ったんだから、もう一回……殴ってくれ!」
「何この変態エキセントリックすぎるっ!」
いやあああああ、と断末魔のような叫び声を上げながら、女子が俺の前から去っていった。
グッバイ、俺の高校生活。