教育と言われても……

「僕だって共学の女子に詳しい訳では」
「少なくとも遥よりかは分かっているはずだ」
「……」

 困ったなぁ。一体どうすれば……。それに、

「まずは娘さんが僕の話を聞いてくれるかが……」
「それはこちらに任せてくれ」

 そして菊池のお父さんは帰っていった。
 次の日。
 学校に行くと、ぶすっとしなから菊池が僕の所に来た。

「父から言われたんだけど、私の教育係になるんだって?」
「え、う、うん」

 僕は意外と素直な対応に少し驚いた。

「背に腹はかえられないから宜しく……」
「あぁ」
「で、何から教えてくれるの??」
「そ、そうだな。まずは女性らしさを身につけよう」
「?? どういうこと? 家庭科を教えるてくれるの?」
「え、それってどういう??」
「私に勉強を教えてくれるんじゃないの?」
「え? なんだって!?」

 どういう意味だ? 勉強? 確かに女性らしさの勉強っちゃあ勉強だが……。
 そうしたら父からlineが来た。
『彼女は学校の勉強も苦手らしい。だから普通の教育係も教えてほしいそうだ』
はあ!? なんだってそんな面倒なことを僕が教えないといけないんだ!! 話が違うぞ! そんなの嫌に決まって……。
『もし教えてくれたら、菊池から報酬を頂けるそうだ』
 仕方ない教えるか。
 僕は現金に弱かった。

「で、何の勉強が苦手なんだ?」
「……ぶ」
「え?」
「……んぶ」
「なんだって?」

 声が小さくて聞こえないので、耳を近づける。

「全部よ!!」

 急に大きな声を出しやがった!
 うるせっ!!

「そんなに勉強苦手なのか?」

 彼女は顔を赤らめながら、もぞもぞしていた。
 か、可愛い……。

「そ、そうか。何から教えようか」
「そうね。まずは今日の宿題教えて」
 ぺらっと出してきたプリント用紙はほとんどまっさらだった。

「は、白紙!??」
「やったんだけど、ほとんど分からなくって」

 こいつ、もしかして……。かなりのポンコツか?
 そして授業が始まる隙間時間に勉強を教えた。
 そして学校が終わり、僕は帰宅した。

「あー、疲れたーっ」

 なんかいつもより疲れた。
 教育係か……。最初は女子らしさを教える話だったのに、学校の勉強の方になるとは……。まぁ、親父さんもよく考えたな。
 感心する反面あのポンコツを押し付けられた感があって少しイラッとした。
 待てよ、変でポンコツか。
 ……癖が強い。
 それはまぁ置いといて、しかしすぐに女子らしさを教えても反発するだろうから、彼女からある程度の信頼を得ないといけないな。
 まずは普通に勉強を教えるのが一番だな。
 なんか初めの話と大分違ってきたな……。
 そうして僕は彼女にどんな感じで教えたらいいか考えた。
 まずは最低限の宿題を終わらせないといけないので、宿題を教える。
 しかし宿題を教えるにも時間の限界があった。
 一時間目に終わらせないといけない宿題もあるので、時間が足りない。

「なあ、これじゃあほぼ丸写しになっちまう」
「……そうね」
「放課後残れるか?」
「もう部活に入ったから無理」
「何部に?」
「美術部」
「……そうか」

 普段は僕も家に直行派だからな。
 さてどうしたものか?

「家に来るか?」
「え?」

 そしたら突然菊池は顔を赤らめて目を泳がした。
 え、なんだよ? 何か変なこと言ったか??
 そして周りもざわざわし初めた。

「えっ、赤澤君。最近菊池さんとよく話すと思ったらそういう関係なの??」
「へっ?」
「お前、菊池さんとどこ迄いったんだ!?」
「はい??」

 こいつら何を言っているんだ?

「私、そんな簡単に男性の家に行かないから……」

 菊池は赤面して口ごもりながら言う。
 こいつも何言ってんだ??

「いやいや。家に来たことあるだろ?」
「えーっ、もう彼女を赤澤君家に連れて行ったことあるの!?」
「何だって赤澤!??」

 周りは興奮気味で言う。

「それに風呂まで入った癖に何を言う??」
「お風呂!???」

 周りは響めき、菊池もトマトの様な顔の色をしていた。

「だ、だってあの時は両親が一緒に居たから……」
「えーっ! 既に両親の紹介を終わらせているのっ???」
「きゃーっ!!!」

 全く図々しいったらありゃあしないだろ?
 ん? なんだ? 何か空気がおかしいぞ。

「もしかして結婚を前提に付き合っているの??」
「え?」
「どうなんだ赤澤!!」
「そんなことないだろ? 何言って……」

 そして僕ははっと気付く。
 ……家に来るか?
 ……風呂まで入った。
 ……彼女の両親が家に来たことある。
 あっ、あっ……。
 僕は急に恥ずかしくなってきた。

「違う! 違う! 僕はただの教育係だ!!」

 一度しーんとしてから、女子達がきゃーっと黄色い声をあげた。

「何教えているの!??」
「普通に学校の勉強だ!」
「それだけ!??」
「それだけ!!」

 絶対調教しているわ、と小さい声が聞こえてきた。
 何の調教だよ!?
 菊池を見ると彼女は顔を赤っかに染め上げて両手を頬に当てていた。

「と、とにかく家に来いよ! 分かったな!!」

 僕は何か恥ずかしさのあまり急いで教室を出た。