僕の平和な学校生活は終わった。
 彼女、菊池遥のせいで……。

 僕は赤澤春美|《はるよし》、成績は上の下でこの四月から高校二年生だ。
 よく周りから『はるみ』、『はるみちゃん』と女の子みたいに呼ばれるから、自分の名前をあまり好きではなかった。
 周りから言われたらいつも、

「はるみじゃねー」

 とツッコむのがお約束だった。
 しかしいじられるのは名前だけで、他は特にない。僕は普通の学生と同じような他愛もない高校生活を過ごしていた。
 そして四月になり二年生に上がると、知らない同級生がちらほらいる。
 だから僕は一年の時と同じ組や中学からの同級生だった河井と乾と話をする。

「やっぱり知らない奴いるな」
「そりゃそうだろ」
「どうせ知らない生徒いないなら、いっそのこと全く知らない謎の生徒いないかな?」
「どういう意味だ?」
「それに高校になると劇的な何かが減るよな」
「?」
「つまり転校生とかだよ」
「あー、確かに」
「高校になると、試験受けないといけなくなるからな」
「あー、そうだな」

 日々の日常に飽き飽きしている彼等と他愛のない話をする。
 転校生か……。
 確かに高校の時に来る転校生は中学の時とはまた違う印象を受ける気がする。
 より一層青春感がある。未知との遭遇だ。
 けどまぁそんなの僕には無いだろうな。
 ショートホームルームが始まり、担任が入ってきた。

「おーい、席に着け~」

 男の先生で30代ぐらいの体育の先生だろうか。がっちりした体躯である。

「げー、また八神かよ」

 という声がちらほら聞こえる。
 何人かの生徒は彼を一度担任に持ったことがあるらしい。

「静かにしろ。転校生を紹介する」

 そしてその子が教室に入ると歓声が上がった。
 かなり綺麗な子だった。
 髪は肩まであり、目はぱっちりで、鼻はすっと伸びていた。

「菊池遥です。宜しくお願いします」

 僕は看取れてしまった。
 というか殆どの男子生徒は看取れただろう。
 これは高校生活が楽しくなりそうだ。
 僕は新たな出会いに胸が高鳴った。
 しかしその後彼女が原因で僕の身に大変なことが起こるとも知らずに。
 今日の授業は終わり、帰ろうとしたら親から連絡が来た。

『至急自宅に帰ること』

 謎のlineが送られてきたが、そのまま言う通りにした。

「ただいまー」

 家に帰ると知らない靴が何足かあり、奥から笑い声が聞こえてくる。その部屋に行くと両親が居り、親父がにこやかに知らない夫婦と談笑していた。

「ただいま」
「おぉ、春美帰ったか」
「要件は?」
「後で話すよ」

 なんだよ……と思い自室に向かってドアを開いた。

「えっ!?」
「ん??」

 僕が関わったことのなさそうな女子がそこに半裸の状態でいた。

「きゃーーーー」

 彼女は叫んだ。
 え、ちょっ、えっ??
 僕は混乱した。
 なんで僕の部屋に下着姿の女の子が居るんだ??
 そうしたらどたどたどたと階段から聞こえてきた。

「どうした!?!?」

 親父と面識のないおじさんが上がってきた。

「ちょっ、見ちゃ駄目ーーー」

 ビューンと布団が飛んできた。

「ぐえっ」

 それが僕に当たりボウリングの様に我々は倒れた。
 そして一階のダイニングで六人が揃った。
 僕はぶすっとする。
 そして彼女もムッとしている。
 どうも風呂に入っていたらしい。
 いやいや人ん家で風呂入るかな普通?
 それに僕の部屋だぞ。自分の部屋をノックする人間なんていないだろう。

「おほん、春美。紹介しよう。旧友の菊池一家だ」
「どうも」

 僕はコクンと頭を下げた。
 それにしても気になってたのが、ずっとむくれている彼女だ。どこかで見たことあるような……。

「菊池とは高校からの同級生でさ、仕事の事情で久しぶりにこっちに帰って来たんだ」
「はぁ」
「さて彼女が一人娘でお前と同い年の遥さんだそうだ」

 へぇ。そうなんだ。

「高校はどこなんですか?」
「北高校です」

 彼女はむくれながら言う。
 同じ高校なんだ。ん? 菊池?

「組は?」
「7組ですが?」

 えっ!! もしかして!

「もしかして今日北高に転校した菊池さんですか?」
「はい、そうですが?」
「あの、僕も北高の7組の赤澤です……」
「えっ!? あっ、はぁ……」

 あっ、まぁそりゃあ知らないか。彼女は今日転校したてで、40人いるクラスの生徒を全員認識するのは。
 なるほど。見たことあると思ったらこの子だったのか。

「お、知っているのか春美?」
「知っているも何も、僕のクラスに転校して来たんだよ」
「何だ、そうだったのか!」

 親父は楽しそうに話した。

「それだったら話が早い。これから彼女の面倒を見てくれ」

 ん? あんだって???