そして悠大の秘書だった田中が戻ってきた。

 緊急入院の原因は、腸にできたポリープだったようだ。

 入院生活と自宅療養を終えて再び復帰した田中。


 生真面目な30歳の男性で、和也とは全く違うタウプの生真面目な眼鏡をかけた男性。

 インテリーな感じはするが、堅物で仕事もきっちり定時で片づけて帰ってしまう。

 未だに独身でお見合いしてもいつも断ってばかり。

 噂ではゲイ? とも言われている男性である。



「社長、長い間お休みを頂き申し訳ございませんでした」

 生真面目な挨拶をする田中。

「体はもういいのか? あまり無理をしないように、気を付けてくれよ」

「はい、今後はこのような事がないようにします」


 そう言って、スケジュール表を確認する田中。



 悠大は長年、この生真面目な社長秘書と仕事をしてきたのだ。



「…以上が今日のスケジュールです」

「分かったとりあえず、デスクの上に溜まっている仕事を、片づけてもらえるか? 」

「はい」


 田中はデスクに戻り仕事を始めた。


 
 こうして悠大の仕事も、以前と同じように戻っていた。



嶺亜は。

 あれから案件がひと段落して、悠大が望むとおり専業主婦になり家の中の事をこなしている。


 庭の花壇には綺麗なバラが咲いている。

 今は赤いバラが植えてありイキイキと育っている。


 嶺亜が嬉しそうに花壇の手入れをしている。


「こんにちは。今日も楽しそうね」

 バラの花に話しかけている嶺亜。


「え? ううん、まだまだ、そんなに慌ていないから。…そうなの…え? そんな…だって…」

 話している嶺亜が赤くなって照れている。




 ピッピ。

 携帯電話が鳴った。


 家の中に戻り、嶺亜はリビングで携帯電話に出た。


「もしもし? 」

(嶺亜? 今日の夜は、外食しよう。駅前に18時に来てくれるか? )

「分かりました」


 悠大から外食の誘いだった。


 今日はちょっとだけ、おしゃれしてみようかな? 


 そう思って、嶺亜は部屋に戻って支度を始めた。