「あ…」
嶺亜は驚いてサキを見た。
「あら? 嶺亜さん、やっぱり私が見えるのね? もしかして、気づいていたの? 」
サキは青年の隣に歩み寄って行った。
「やっぱり、奥様だったんですね。いつも、ずっと遠くで見ていたのが見えていました。ちょっと、イライラした顔をしてたのを覚えています」
「いやだなぁ。誰かさんが、13年も離してくれないからイライラも募り過ぎたのよ」
サキはちょっと意地悪そうに、悠大に向かってベーッと舌を出して見せた。
悠大は照れくさそうに笑った。
「もう許してあげたらどうすか? 」
青年がサキに言った。
「そうね。私もやっと、次のステージに行けるから。素敵な男性見つけて。来世で長生きして、沢山恋をするわ。だから2人とも。すぐに、こっちの世界に来たら許さないわよ。孫の顔まで、ちゃんと見て来なさいよ! いいわね! 」
「分かった、もう何も心配するな。これからは、2人でちゃんと幸せになるから安心しろ」
サキはやれやれと笑った。
「さぁ、それでは行きましょうか。先ずは最上階へ。そうしたら、僕ともお別れですから」
「そうね。でも、あんたは生まれ変わっても不思議な力持ってるのね」
「はい、そんな役目の人が少しくらい人間の中にいないと。不幽霊が増えすぎてしまい、困ってしまうようですよ」
「ふーん、そうなんだ」
サキは青年の手を握った。
「じゃあね、2人とも。元気で頑張るんだよ」
「ああ、有難う。サキ、一樹」
「本当に、有難うございました。悠大さんに出会えて、私、幸せです」
サキはそっと微笑んだ。
「じゃあ、これで本当にお別れです。…長い年月が過ぎて、どこかで時の流れが交わった時。きっとまた出会えますよ。たとえお互い、記憶から忘れられていても魂は覚えていますから。それまでお元気で…本当に、有難うございました。とっても、楽しかったです…」
サキと青年が手を振ると。
シューッと一本の光が真上に上がって消えていった。
それは本当にほんの一瞬の事だった。
何もなかったかのように静かになった和室。