和室。
いつも和也が使っている部屋で、今まで荷物が置いてあったが、その荷物がなくなっていた。
布団は綺麗にたたんで端っこに置かれている。
と…。
窓際に誰かが立っている。
太陽の光で良く分からないが、背の高い男性のようだ。
和室のドアを開けて、悠大と嶺亜が入って来た。
「あれ? 誰もいないな」
「和也君の荷物も、ないですね」
「どうしたんだ? 」
2人が驚いていると。
「もう、和也さんはいませんよ」
ちょっと低めの爽やかな声がした。
その声は窓際から聞こえた。
悠大と嶺亜が声がした方を見ると…。
「え? 」
悠大はとても驚いた顔をした。
嶺亜は一瞬だけ驚いたが、すぐに笑顔になった。
太陽の光がゆっくり陰り、窓際に佇む男性の姿がはっきり見えてきた。
スラッとして、とても背が高い綺麗な青年。
年恰好からすると20代後半から30代くらいだろうか。
髪は綺麗なブロンドで、ほっそりした面長の顔に高い鼻、切れ長の目で瞳は綺麗な緑色。
透明感のある白い肌で、見ているとうっとりさせられる。
かっちりした紺色のスーツ姿が、とても凛々しい。
「君は…誰なんだ? 」
悠大が尋ねると、青年はクスッと笑った。
「和也君…ううん…一樹君でしょう? 」
嶺亜が尋ねると、青年はそっと頷いた。
「え? 一樹? だって、一樹は和也君に…」
「和也さんの体は、もうお返ししました。彼も、目を覚ましたいって言っていましたから。だから、本来の僕の姿で最後にお会いしたくて待っていました」
和也の時とは全然違う。
言葉使いも丁寧で、物腰も低くてとても上品。
仕草も優しくて、まるでどこかの皇子様の様である。
「一樹…本当に、一樹なのか? 」
悠大の目が潤んだ。
「はい、僕の前世は貴方の息子で一樹と言う名前でした。でも今は、こことよく似ている環境ですが、もっと未来に発展している別の星で生まれ変わって、違う名前で生きています。ちょっと、病気で倒れてしまいエネルギーだけ移動して。今まで和也さんの体を、お借りしていただけです。このままの姿では、随分と驚かれてしまうと思いましたので」
「そうだったのか。だがお前、随分とカッコいいんだな。びっくりしたよ」
「当然ですよ、僕は。お父さん…貴方のDNAを受け継いで、来世に行きましたから。こうして、素敵な男性になれたのです。有難うございます」
「一樹…今は、何て名前なんだ? 」
「ごめんなさい。未来の名前は、教えることはできないのです」
「そうか…」
「でも安心して下さい。今の、僕のお父さんは貴方に似てとても素敵な人です。そして…」
青年は嶺亜をそっと見つめた。