「こうやって、誰かにギュッとしてもらって。傍にいてもらう事。あんたが一番、欲しかった事じゃん」

「ばかみたい、そんな子供みたいなこと言って」

「ほら、そうやってさぁ。素直じゃないから、また戻っちゃうんだよ」


 和也はそのまま、芹那と一緒にベッドにゴロンと寝転んだ。


「今夜は俺が一緒に寝てあげるから、明日はちゃんと、あんたがやるべきことやるんだぜっ」

「…逃げちゃうかもよ? 」

「大丈夫、俺がギュッと捕まえているからさっ」


 顔を見合わせて、2人はクスッと笑った。


「何年ぶりかしら? こんな気持ちになったの」

「もういいじゃん、これから楽しめば」

「・・・そうね・・・」



 ギュッと抱き合ったまま、2人はそのまま朝まぐぐっすり眠った。







 そして・・・。

 翌朝になって。


 まだ誰も動き出していない早朝に、和也と芹那はホテルを出た。



 目覚めた芹那は派手なメイクも落として、ほぼすっぴんのままだった。


 和也は特に何も言わず、芹那が歩く方向に一緒に着いて行った。





 そのまま歩いて…。


 芹那は警察署の前にやって来た。


 着いてきた和也にそっと振り向き、芹那は穏やかな笑みを浮かべた。

「ここでいいわよ。もう、逃げたりしないし」

「うん。…じゃあ、これも一緒に持って行って」

 
 和也が渡したのは携帯電話だった。


「これに、昨晩の会話が録画してあるんだ。証拠として出すか、出さないかは任せるから」

「ちゃっかりしているのね。有難く、受け取るわ」

 芹那は携帯電話を受け取った。

「貴方って何者なの? あんな古い証拠まで持っているなんて」

「俺は…13年前の、事故で死んだ一樹だよ。あの時は、2歳だったけど」

「死んだ? 今ここにいるのに? 」

「そっ。ここの警察署の刑事さんが、怪我して意識不明になって。体借りているだけ。でも、もう返さなくちゃならないから。本当の和也さんが、目を覚ましたいって言っているし」

「ふーん。意味わかんないけど、ここだけの秘密にしておくわ。有難う」


 芹那は階段を登り始めた。



「あ、そうだわ」


 足を止めて芹那が振り向いた。