「まったく。なに勘違いしているんだよ! 本当に愛していないのは、あんた自身の事だよ。あんたは自分が一番嫌いだから、みんなが嫌いになっちゃうんだ。殺しちゃった夫も、あんたの事本当に愛してくれてたんだよ。浮気なんてしてない、あの写真はただ誘われただけで。実際には、ホテルに入ってもいないし何もなかったんだよ」

「…じゃあ何で、否定しなかったの? 」

「否定していたじゃん、あんたが聞き入れなかっただけ。勢いに任せて、そのまま殺しちゃっただけだよ」

 
 何も言えなくなり、芹那は俯いた。

「それから、あんたの育ての両親も。あんたの事、実の子供と同じくらい愛してくれていたよ。だから、あんたに立ち直って欲しかっただけだよ」


 
 芹那は育ての両親を、殺した時の事を思いだした。


 夫を殺してそのまま実家である家に帰ってきた芹那。

  
 夫のコートを借りて家に帰って来ると。


「芹那、どこに行っていたんだ? 探していたんだぞ」

 父親が怒った顔で出て来た。

 
 こいつも私を責めに来たんだ…。

 芹那はそう思った。


「芹那、ひき逃げしたって本当なの? 」


 後からやって来た母親が言った。


 またこいつも私を責めている…。

 こいつらは、どうせ私の本当の親ではない。

 可愛いなんて思っていないんだから…。


 芹那は鼻で笑った。

「ひき逃げしたって? それがどうしたの? それで、私を責める? 」


「芹那、何を言い出すんだ。私達は、事実を確認しているだけだ」

「そうよ芹那。そりゃ、突然の事で驚いたんだと思うの。でも、どうして逃げたの? 」

「別に。逃げたかったから、逃げただけよ。悪い? 」


 悪びれる事もない芹那に、父も母もまた怒りの目を向けた。


 その目を見て芹那は不敵に笑った。


「責めたければ、勝手にどうぞ。どうせ私は、あんた達の本当の子供じゃないから。可愛くもないんでしょう? 」


「誰がそんな事言っている? 」

「そうよ、亡くなった貴女のお母さんにも、娘をお願いしますってお父さんは頼まれているのよ」

「そうだ。お前を可愛くないなんて、思った事はない」