テレビにはまた違う映像が映った。
「ちょ、ちょっと待て芹那。俺は何も喋っていない」
「嘘! じゃあ何で父と母が知っているの? あの事故の事を知っているのは、あんただけじゃない! 」
「違う! 俺じゃない。怖くて話せるわけないじゃないか! 11年経過した今だって、遺族はひき逃げ犯を探しているんだぞ」
「じゃあなんでよ! 今まで目撃者だって、現れなかったのに。どうしてよ! 」
怒りが逆上した芹那は、キッチンから包丁を取り出した。
「あんたも私を裏切るのね? 」
包丁を手に、芹那は男性に詰め寄って行く。
「よ、よせ! 俺じゃないって、言っているじゃないか」
芹那は男性に包丁を突き付ける。
「あんたと愛がない結婚でも、別にいいって思っていたわ。お互い、秘密があるんだもの。一生あんたは私から離れる事なんて、できないってそう思ていたから」
男性は息を呑んだ。
「あんたが浮気しても、目をつむっていたわ。私の事を、抱いてくれなくても帰る場所はここしかないって思っていたから」
「何を言っているんだ? 俺は、浮気なんてしていない。仕事関係の女の事、勘違いするな! 」
「仕事関係の女と、ホテルに行くわけ? 」
芹那はポケットから写真を取り出し、男性に突き付けた。
その写真は、男性と髪の長い綺麗な女性がラブホテルに入っていくところが写っている。
「これでも、違うって言うの? 」
男性は何も言えなくなって、また息を呑んだ。
「…共犯者でも、一緒にいてくれればいいって思っていたけど。…私を裏切るなら、容赦しないわ! 」
そのままの勢いで、芹那は男性の腹部を刺した。
「うっ…」
床に血がしたたり落ち、男性はその場に倒れた。
芹那は特に顔色を変える事なく、その場を去って行った。
「なんなの? これ…」
驚く芹那を見て、和也は起き上がった。
「姉ちゃん。いくら嘘ついてても、バレなくても。空にお日様が照っている限り、ちゃんと神様は見ているんだよ」
「はぁ? 」
テレビの画面が切り替わった。
「うっ…」
「キャーッ…」