そのまま車を走らせて会社までやってきた悠大と嶺亜。


 廊下を歩いていると、社員とすれ違った。


「あ、社長お疲れ様です」

 男性社員が声をかけてきた。


「お疲れ様」

「社長、奥様ですか? 」

「ああ、妻の嶺亜だ」

 男性社員は嶺亜を見た。

「随分と綺麗な奥さんですね、羨ましいです」

 
 笑いかけてくれ男性社員に、嶺亜はちょっとぎこちない笑みを浮かべた。






 
 社長室に向かうと、和也がデスクで仕事していた。


「ん? あれ? 来たの? 」

 手を止めて和也が言った。

「ああ、ちょっとやる事があったからな」


 悠大の後に入って来た嶺亜を見て、和也はきょんとなった。


「姉ちゃん。どうしたの? 」


 
 悠大は嶺亜をソファーに座らせた。

「ちょっと、ここに座ってて」


 そう言って、悠大は冷蔵庫から冷たいカフェオレを取り出して、マグカップにいれると、レンジで少し温めて嶺亜に持って行った。


「あんまり温かくしていないから、これ飲んで待ってて」

 マグカップには、ちゃんとストローまでさしてあった。

「有難うございます…」


 嶺亜はマスクを少しだけずらして、ストローでカフェオレを飲み始めた。


「ふーん。なぁんだ、上手くやったんじゃん」

 デスクに座る悠大を見て、和也はニヤッと笑った。


「随分顔色いいんじゃねぇ? 」


 悠大の顔を覗きこんで和也が言った。


「余計な事言わなくていいから、それ終わったらもう帰っていいぞ」

「え? まだ定時じゃないし。早すぎじゃねぇ? 」

「今日はかなり早く出社しているだろう? だから、早く帰っていい。朝からバタバタしていたんだ、少しは休め」

「へぇー。あんたにも、そんな優しいとこあるんだ」


 ちょっとからかうように和也は笑った。