サキが消えてから間もなくして、嶺亜は目を覚ました。
茫然として辺りを見渡しながら起き上がり、悠大がいるのを目にしてハッとなった。
「大丈夫か? どこも、痛くないか? 」
尋ねられると、嶺亜はこくりと頷いた。
「何も心配する事はない。公園で倒れていたから、連れて帰って来ただけだ。体調が悪いときは、無理をしていかん。素直に休むことも仕事だ。遠慮する事はないから、その…そうゆう時は、言ってくれて構わないよ」
「はい…有難うございます‥」
嶺亜は顔を背けて、そっと涙を拭った。
そんな嶺亜を見ると、悠大の胸がズキンと痛んだ。
こんなにも傷つけていたのか…ずっと、見ないようにしていた…本当は、とても気になっていたのに…歩み寄ろうとしなかった…。
「ごめんね…」
とても優しい声で謝られて、嶺亜は胸がキュンと鳴った。
だが、何故謝られるのか判らず、驚いた目をして悠大を見た。
「あ…その…。泣かせてしまったから…」
悠大は申し訳なさそうに俯いた。
「い、いいえ違います。嬉しいのです」
「え? 」
「…やっと、ちゃんと顔を見て、お話ししてもらえたので…」
ちょっと恥ずかしそうに、嶺亜は鼻をすすった。
「ごめん…本当に…」
「いいえ、お気持ち解りますから。奥様とお子様を、とても愛していらっしゃったのですね。忘れられなくても、仕方ないと思います」
「違う、そうじゃないんだ」
「え? 」
きょんとした目で悠大を見る嶺亜。
悠大も顔をあげて嶺亜を見た。
目と目が合うと、悠大は優しく笑ってくれる。
その眼差しがとても嬉しくて、嶺亜の目がまた潤んできた。
嶺亜の顔をちゃんと見て、悠大はようやく嶺亜の瞳の色が紫色であることに気づいた。
この前、トイレで目と目が瞬間的に合った時、何か違うと思ったのは、瞳の色だったのだと気づいた悠大。
「綺麗な目をしているんだね」
「あ…」
嶺亜はそっと視線を落とした。
「本当の気持ちを、伝えさせてもらえるだろうか? 」
「はい…」
小さく返事をする嶺亜が、とても小さく見えて悠大はそっと手を握った。