悠大はまだ部屋で仕事をしていた。


「ん? 」


 階段を登って来る足音に気づいて、悠大は手を止めた。




 静かに部屋のドアを開けると、和也が嶺亜の部屋に入って行ったのが見えた。

「あいつ、また・・・」


 悠大は足音を忍ばせて後を追った。






 和也は嶺亜の部屋に入ると、寝ている嶺亜の傍に歩み寄った。


 寝ているときもマスクを着けたままの嶺亜。



 和也はそっと、嶺亜のマスクを外してみた。

 すると・・・・

「わぁ・・・」


 和也も息を呑むくらい、頬が酷く腫れていて、口元は内出血しているようになっていて切れている。


 その傷を見ると、和也は胸が苦しくなってマスクをそっと着けた。




 和也は胸を押さえながら嶺亜の部屋から出て来た。


 すると。

 階段の傍で悠大が待っていた。


 ハッとして和也は立ち止まった。


「お前、また覗いていたのか? 」


 悠大は特に怒ることなく静かに言った。


 和也はそんな悠大を見つめた。

「ん? 」

 どこか泣きそうな目をしている和也を見ると、ふと、小さな頃の一樹と重なって見えた悠大。

 目頭を押さえて、もう一度、和也を見た。


「・・・あのさ、ちょっと話があるんだけど・・・。下に来てよ」




 

 和也に呼ばれて悠大は1階のリビングにやって来た。


 和也は食器棚の引き出しにある財布を持て来た。



 財布の中を見ると、サキが言ったようにお札が一枚もなく空っぽだった。

 小銭は入っているようだ。



「これ、見てよ」

 
 悠大は渡された財布を見て驚いた。

 その財布はいつも、悠大が生活費を入れておく財布だった。



「もう、全て使ってしまったのか? 」

 悠大が驚いていると、和也がため息をついた。


「生活費を渡したのいつ? 」

「今朝だが? 」

「いくら渡したのか覚えている? 」

「確か15万ほど渡している」

「そこに入っている小銭を見て、嶺亜さんが15万も全部使っているように見えるのか? 」


 悠大は小銭を確認した。

 小銭は600円ほど残っている。


 小銭れにレシートが入っていた。


 購入したのはコンビニでマスクだけ。