「どうして? 仕返ししても、何も変わらないでしょう? せっかく別の星で生まれ変わったのなら、そこで幸せになればいいじゃない」
「・・・母さんは、幸せになれたの? 」
「え? 」
「そのままの姿でここにいるって事は、幸せになれないからでしょう? 」
サキはちょっとだけ辛そうな目をしたが、すぐに笑顔になり和也を見つめた。
「私はね。あの事故で死んでから、守護天使になっただけよ。人間としては、最後だって決めていたから。だからずっと、お父さんを見守っていただけよ」
そう答えるサキの横顔がとても悲しそうに見えて、和也は胸が痛んだ。
「母さん何言っているの? あの、事故の時のままって事は。母さんは、一度も最上階に行ってないって事じゃん」
ギュッと唇を噛んで、サキは何も言わない・・・。
「あの事故の相手が許せないからでしょう? 」
「違うわよ・・・。お父さんが、離してくれないからよ。・・・ずっと、13年たっても死んだこと認めてくれないし。引き止められているの。だから・・・守護天使になるしかないでしょう? 」
「それは違うよ。俺は、まだ小さくて良く分らないままだったけど。生まれ変わっても、前世の記憶が消えないままだった。ずっと原因不明の病気にばかりかかって、幸せになるところか、苦しいままだよ。今、俺の体はずっと意識のままだよ。夢にまで見ていたから、前世で引き殺された事を。だから・・・あいつに仕返ししてやらないと、俺は生まれ変わっても幸せになんてなれないんだよ! 」
「一樹・・・」
サキは悲しそうな目で和也を見つめた。
「言いたい事は分かっている。この世に未練を残さないで、決めた人生を全うしただけなんだ。・・・だけど俺は・・・もっと、父さんと一緒にいたかったよ。・・・」
潤んでいた和也の目からスッと涙がしたたり落ちた。
サキはそっと和也を抱きしめた。
「・・・母さん。・・・心配しないで。俺の本当の目的は、仕返しだけじゃないよ。父さんに、幸せになって欲しいから。だから、ちょっと病院で死にそうだった人の体を借りてここに来たんだよ」
「・・・そう。・・・」
「母さん。父さんが、幸せになる事を許してあげられる? 」
「もちろんよ。私だって、13年も引き止められててたら。次のステージに行けないままだもの。本当の守護天使になる事もできないまま、ずっと不幽霊のままなんて耐えられないわ」
「じゃあ、後は僕に任せて。父さんを、正直にさせるから」
「そうね、貴方の方ができそうよね。男同士だもの。貴方は、お父さんに似ているから」
「うん・・・」
サキは和也の涙をそっと拭った。