そんな気持ちのまま、悠大はトイレに向かった。




 トイレでは嶺亜がトイレットペーパーを入れ替えて、きちんと整えていた。



 嶺亜が振り向くと悠大がやって来た。


「あ…」


 振り向いた嶺亜と目と目が合うと、悠大はドキッとした。


 2週間ぶりに嶺亜の顔を見た悠大は、ちょっとだけ嶺亜がほっそりした事に気付いた。

 そして…嶺亜の目を見て、何か違うと感じた。

「ごめんなさい、トイレットペパーを入れ替えていたんです。もう終わりましたから、どうぞ使って下さい」


 優しい笑みを浮かべて嶺亜は言った。


 何で笑ってくれるのだろう? あんなに冷たい態度をしているのに…。

 悠大はちょっとだけ罪悪感を感じた。


 遠慮気味に、嶺亜が通りすぎようとした時。


 ガシっと、悠大は嶺亜の腕をつかんで引き留めた。


 え? 何? 

 と、嶺亜は悠大を見た。

 悠大はハッとなり、視線を反らした。

 何故引き留めてしまったのか、悠大自身判らなかった。

 ただ、なんとなく引き留めてしまった。

 
 ギュッと掴んでいる嶺亜の腕は、見かけよりも細い…。

 何となく悠大の胸がキュンとなった。

「…あの…もし…もしも、勘違いしていたら。誤解しないでほしいのだが」

「え? 何のことですか? 」

「いや、私は…嫌っているわけではないんだ…」

 
 嶺亜はそっと悠大を見つめた。

 悠大はどこか不器用で、どんな顔をしたらいいのか分からないようだ。


「大丈夫ですよ。分かっていますから」

 優しい嶺亜の声。

 そんな声を聞くと、頑なだった悠大の心がちょっとだけ軽くなったのを感じた。


「嶺亜さん、これはどこに置くの? 」

 和也の声が聞こえた。

 
 和也の声が聞こえ、悠大はそっと手を離した。

「嶺亜さん、どこ? 」

「あ、はい。今行きます」


 和也に呼ばれて嶺亜はリビングに向かった。


 悠大はフッとため息をついて、嶺亜に触れた手を見つめた。

「…ただ触れただけで、こんなに気持ちが楽になるなんて初めてだな…」


 小さく笑う悠大は、少しだけ穏やかな表情をしている。