玄関ドアを開け、僕は盗みたてのスニーカーを土間の上で脱ぐ。
その瞬間足に針が刺さったように鋭い痛みを感じた。
靴下を脱いで確かめると、案の定かかとが擦り剝けていた。
サイズが若干合っていなかったのか、靴擦れを起こしてしまったようだった。
間違いがないよう念入りに選べばよかったな。
玄関に座り込み、もう片方の靴下を脱ぐと同じように擦り剝けていた。
痛い、二度と歩きたくないと思った。
傍から見れば小さな傷だが、見た目よりも重たい痛みだ。
先程の玄関ドアが閉まる音で気付いたのか、ユリナは「おかえりー!」とリビングの開き戸を勢いよく開けて僕の元へ駆け寄ってきた。
僕はその方向を見ずに「ただいま」と言葉だけ返した。
ユリナは近づいて僕の足傷を見るなりわっ!と大袈裟なくらい驚いた。
「どうしたの!?靴擦れ!?痛そう・・・サイズが合ってなかったのかな?大変!」
ドタドタと音を立てて廊下を走っていき、ゴトッゴトッと押入れをひっくり返すような音が聞こえてきた。
中身は大人だというのに、靴擦れ位で蹲るなんて。
いくつになっても子供のままだなと苦笑した。
キッチンから流水音が聞こえ、彼女は慌てた様子でこちらに戻ってきた。
「まずは傷口を洗わなくちゃ!染みるよ!?」
僕の足首を持ち、濡れたウエスを傷口に当てた。
分散され広がっていくような痛みを感じ、思わず顔を歪める。
丁寧にウエスを動かし、汚れを拭き取っていく。
反対の足も同じように傷口とその周りを拭いてくれた。
彼女はかかと全てを覆う程の大きな絆創膏を手に取り、裏紙を一部剥がして足の傷の位置に合わせて粘着させる。
「この大きさしか見当たらなかったから、我慢してね」
しっかりと密着させるよう指先で圧をかけ引き伸ばすようにして貼ってくれた。
保護膜を得た傷口からは棘が抜けていくように痛みが引いていった。
両方の擦り傷を応急処置した後、彼女は「はぁ、よかった・・・」と一息ついた後すぐにキッと僕の方を睨んできた。
「全くもう!どこをほっつき歩いていたの!?自転車はないし、帰ったと思えば怪我はしてるし!一人で寂しかったんだよ!?」
キャンキャンと吠え不満を勢いよくぶつけてきた。
若干見慣れてきた毎度の流れだ。
「ちょっと散歩に行ってきただけだよ、悪かったって・・・」
平謝りをし、反撃を抑えるために両手を前に出して空気を何回も押すような動作をした。
彼女は頬を膨らませてプイッと顔を背けた。
「そんな子には私の手料理食べさせてあげないんだから!ふんっだ!」
「え?手料理?」
彼女は目線だけをこちらに向けて窺うように見る。