転生聖女は幼馴染みの硬派な騎士に恋をする

【大門寺トオルの告白⑰】

 翌日朝……

 リンちゃんと愛を確かめ合った俺は改めてどうするのか考えた。 

 今日はとてもじゃないが、出勤というか出動は不可能だもの。
 なので昨夜ジェロームさんへ依頼済み……
 適当な理由をつけ、騎士隊へは有給休暇希望の連絡をして貰っていた。

 ジェロームさんからは、傷害罪でアランを訴える事も可能だと言われたが、
 俺は許してやる事にした。
 アランの奴、俺がジョルジエットさんを泣かせたと勘違いして、
 思わず我を忘れたと分かっていたから。
 
 一見、軟派で茶目っ気たっぷりだけど、実は真面目で冷静なアランがあんなに取り乱すなんて。
 今から考えれば……
 あいつがあの日、人生をかけると言ったのは、聞き違いではなかった。
 
 そして後輩のリュカは事の『真相』を知っているから、ちょっとだけ気になったが……
 万が一聞かれても、まともには答えないと思う。
 
 そんなこんなで、昼過ぎに……
 アランとジョルジエットさんふたりの行方が判明した。
 
 と、いうよりお昼頃、何事もなかったかのように騎士隊の宿舎に現れたアランは……
 自分が殴って大怪我をした俺が、創世神教会附属病院に入院したと聞いて、すっ飛んで来たのだ。

 そんなわけで、今、俺の前には……
 アランとジョルジェットさんが、並んでいる。
 傍らには、ジェロームさんが渋い顔をして、腕組みをしながら立っていた。

 ちなみに、リンちゃんも部屋に居る。
 リンちゃんは元々、教会の聖女なので、同席しても違和感はない。

 ……アランとジョルジェットさんは、
 何と! 
 頭を床にすりつけ土下座をしていた。
 俺は止めたのだが、ふたりは頑として聞かなかった。

「も、申しわけありません!! つい、かあっとなって……副長を殴ってしまった。僕の完全な勘違いです」

「ま、まあ、幸い骨折はしてなかったからさ」

「副長! 本当に申しわけありませんっ!! ジョルを悲しませる奴は、誰であろうと絶対に許せなかったんです」

 え?
 ジョル?
 昨夜、アランはジョルジェットさんを、そうは呼んでいなかったはずだ。

「ごめんなさい! クリスさんには優しく慰めて貰っていただけなのに……私が嬉しくて、大泣きしたせいで、アランたら、とんだ過ちを犯してしまって……」

 ふたりの間には、昨夜より、特別で親密な雰囲気が醸し出されている。
 このふたり……昨夜中に「男女の関係」になったようだ。

「副長! 貴方も騎士だから分かるでしょう。戦場で聖女は天使だ。そしてジョルは僕にとって、唯一の大天使なんだ」

 おお、凄い。
 唯一の大天使って?

 何だよ、おい。
 アランは、ジョルジェットさんに「べたぼれ」だ。
 治癒士の悩みも聞いたから、愛しさが一層増したのだろう。

 プロポーズにも等しい愛の言葉を聞いた、ジョルジェットさんも感極まっているようだ。

「アラン! う、嬉しい!」

「副長、隊長も聞いてください! 僕は決めました! ジョルと結婚する事に決めたんです! 一回会うのを断られた時、気になる子くらいだと単純に考えていたんです。だけど……昨夜会って話してからは、僕にはこの子しか、ジョルしか居ない! そう思ったんです」

「わ、私も! アランの悪い噂は聞いていたから……噂通りいい加減な人だったら思い切り振ってやろうと思っていたわ……でも、違った!」

「ありがとう! ジョル、結婚してくれ!」

「はいっ!」

 あらら、アランの奴、本当にプロポーズまでしちゃった。
 
 こうなると……もう決定的。
 アランとジョルジェットさんは、熱く見つめ合い、固く手を握り合っている。
  
「うふふ、凄いですね」

 にっこり笑ったのはフルールさんこと、リンちゃん。
 その意味は、すぐに分かった。
 俺は前世同様、またまた出席した合コンで、運命的なカップルを生み出していた。
 つまり愛の伝道師の『ふたつ名』は、異世界でもやっぱり威力を発揮したのだ。

 でも良かった。
 俺は凄く嬉しくなった。
 心の底から。 
 以前の俺なら「良かったなあ」と思いながら、実は羨ましかったに違いない。
 
 しかし、今は違う。
 俺には愛するリンちゃんが居る。
 
 異世界転移で離れ離れになって、一生会えないと思ったリンちゃんに、
 運命の再会をした上、恋人同士にもなれた。
 さっきの、アランのセリフではないが、
 俺にはもう……リンちゃんしかいない。
 
 反省しきりのアランはお詫びとして、
 昨夜の店の飲食費一切と、慰謝料として俺へ結構な現金を支払った。
 
 贈られた現金を、固辞した俺であったが……
 アランは気が済まないので、ぜひお渡したいという。
 
 仕方無いので、とりあえずは受け取り……
 場所が場所なので、創世神教会にそのまま寄付した。
 
 リンちゃんに再び引き会わせてくれたのが、もしもこの世界の神、創世神様なら、お礼の意味もある。
 ちなみに寄付された金は、教会が経営する孤児院などの運営費に使われるらしい。
 
 俺との『示談』が無事に済み……
 アランとジョルジエットさんは改めて謝罪した上で、満足そうに去って行った。
 
 だが、『話』はまだ……終わらなかった。
 驚く事にまだ、俺の伝道師の力が? しっかりと働いていたのである。
 
 アラン達が去った後、ジェロームさんが呼ぶと……
 シュザンヌさんが、顔を赤くして部屋へ入って来たのだ。

 おお!
 まさか、この展開は?

「ええと、こんな時になんだけど、俺達……結局、付き合う事になったから」

「はい! 私、ジェロームさんと、お菓子の話で意気投合しちゃいました。お菓子が大好きな強い騎士って、意外性もあってとても素敵!」

 おお、ジェロームさん、良かったなぁ!
 それに、シュザンヌさんも幸せそうだ。
 美男、美女のカップルで、とってもお似合いだよ。

 ジェロームさんが、満面の笑みを浮かべて言う。

「クリス……お前に言われた通りだ。素直になってシュザンヌと話したら、とても楽しかったよ……愛する彼女が居るって、実に気持ちが良いな」

 結局、ジェロームさん達カップルも手をつなぎ、スキップしながら去って行った。
 こうして、病室に残されたのは……
 またもや、俺とリンちゃんだけ。

「リンちゃん、……俺ってさ、またこんな毎日が続くのかな?」

 苦笑する俺に対して、リンちゃんはほっこり笑顔である。

「うふふ、大変ね、トオルさん。また誰かから、頼りにされそうよ」

 リンちゃんの癒し笑顔を見て、俺は名案を思い付く。

「ようし、リンちゃんから、凄いパワーを貰っちゃうぞ」

「OKよ!」

 今、リンちゃんとふたりきりだし、身体も復活しつつあった。
 
 アランや、ジェロームさんに負けじ! と……
 俺は、リンちゃんを抱き寄せ、あっついキスをしたのであった。
【相坂リンの告白⑱】

 食事会の数日後……

 私を始めとした参加メンバーが全員呼び出された。
 私フルール、シスターシュザンヌ、シスターステファニー。
 呼び出したのはシスタージョルジエット、集合場所は彼女の寄宿舎の部屋である。

 私達聖女は基本『寄宿舎』住まいである。
 最近は治癒士の仕事の過酷さから、聖女の成り手が減っており、
 最初から個室が与えられる。
 
 また結婚して、即退職というパターンも結構多い。
 なので、寄宿舎の空き部屋は結構あるのだ。

 閑話休題。

 シスタージョルジエットが何故私達を呼んだのか用事は告げられなかった。
 だが、おおよそ予想はついていた。
 
 多分、アランさんへの接し方、対応に関する彼女の極端な方針変更、
 傍から見て彼女のマッチポンプ的ともいえる行動についてであろう。

 シスターシュザンヌと私は「結果良し」もあり、
 敢えて追及しようとは思わなかった。
 しかし唯一、病院でも怒りが収まらなかったのが、
 シスターステファニーである。

 私との『トオルさん争奪戦』に敗れ、シスターの中では唯一カップリングへ至らなかった無念さは想像するに難くない。

 それ故……
 私、シスターシュザンヌと続き、
 一番最後に登場したシスターステファニーはいかにも機嫌が悪そうであった。

 こうして全員が揃ったので、シスタージョルジエットが話を始めるようだ。

「お忙しい中、参集して頂いたのは外でもありません、用件は勿論、皆様への謝罪、すなわち懺悔です」

「…………」

 私も含め、誰も言葉を発さない。
 当然かもしれない。
 もしも筋を通すのなら、このように呼びつけるのではなく、
 自ら各自の部屋へきちんと赴き、ちゃんと謝罪するのが当然だからだ。

 教会らしく懺悔をすると言われても、それはお門違い。
 シスターステファニーの表情が最も険しいのは言うまでもない。

 だがシスタージョルジエットは、神妙な面持ちである。
 軽く息を吐くと、深く深く頭を下げた。
 そして、

「皆様、今回私は誤った情報に踊らされました。皆様にはご迷惑を、そして更に大きなご迷惑をかけるところでした。誠に申しわけございません」

 謝るのは当然かもしれないが……
 私が知りたいのは、その誤った情報についての詳細だ。

 そんな私の意図を見抜いたかのように、シスタージョルジエットが説明を始めた。
 ここで全て述べると長いので要約するが……
 簡単に言えば、訴えた女性達の『逆恨み』であった。

 確かにアランさんは、多くの女性達とデートをした。
 だがあくまでも友人としてと、きっぱり前置きしたのと、
 単に食事に付き合ってとりとめのない話をしただけで、
 相手女性の手さえ握らなかったそうだ。

 シスタージョルジエットが鋭く問い詰めたのに対し、
 堂々と穏やかに、且つ丁寧に説明してくれたというアランさん。
 
 彼の態度を見て、シスタージョルジエットは凝り固まった疑念が本当に真実なのか、改めて調べようと思ったらしい。

 アランさんは当該女性と一緒に、
 事の真相を確かめても構わないとまで言い切ったそうだ。

 だからシスタージョルジエットは、改めて女性達へ直接確かめたという。
 アランさんはさすがに同席させなかったが、教会お得意の『懺悔』という形で……
 結果、訴えは全て真っ赤な嘘だというのが発覚した。

 また女性達の嘘は、当然アランさんにも伝わったのだが、
 彼はおおらかに「お構いなし」で許したという。

 話が終わると……
 再びシスタージョルジエットは謝罪して頭を下げた。

 私は軽く息を吐いた。
 やっぱりという苦い思いと、
 大事に至らなくて良かったという安堵が心に入り交じる。

 そして傍らのシスターシュザンヌと顔を見合わせ、頷いた。
 アランさんと結婚を控えたシスタージョルジエットを許そうというアイコンタクトである。

 だが一番肝心のシスターステファニーは?

 私とシスターシュザンヌが恐る恐る見やれば……
 何と!
 満面の笑みを浮かべていた。

 そして、シスターステファニーの方から嬉々として話しだした。
 こちらもだいぶノロケが入っていて、話が長いのでこちらも要約すると……

 食事会翌日の晩に、彼女は祖父・枢機卿の仕切りで、見合いをしたそうである。
 当初はいろいろな要因から、あまり気の進まない見合い話であったらしいが……
 実際に相手と会ってみたら、上級貴族のイケメンで性格良し、文句なしの青年だったらしい。

 元々『面食い』のシスターステファニーは相手の誠実さも感じ、ますます好印象を持ったという。
 そんな浮き浮き気分のシスターステファニーを見て、
 一番安堵しているのは、当然シスタージョルジエットである。

 ここで私だけがピンと来た。
 トオルさんの超絶スキル『愛の伝道師』がまたまた発動したのだ。

 私はつい驚きの感情を口に出してしまう。

「凄いな……」と。

 でも私のつぶやきはしっかりと聞かれていた。
 シスターシュザンヌが訝し気に尋ねて来たのだ。

「どうしたの? 何が凄いの?」

「い、いえ! な、何でもありません」

 慌てた私は懸命に誤魔化した。
 幸い、シスターシュザンヌはあまり追及しては来なかった。

「それよりシスターフルール、私お礼を言わなきゃ」

「お礼? 誰にですか?」

「決まっています。当然、レーヌ子爵様ですよ。あの方のご尽力なくしては、私、ジェローム様と親しくはなれなかったわ」

 ああ、さすがはシスターシュザンヌ。
 トオルさんの超絶スキルは知らずとも、彼女だけがトオルさんの裏側での尽力を見抜いてる。
 やはり貴女は聖女の(かがみ)だ。

 という事で……
 愛の伝道師トオルさんのお陰なのか、私達4人は全員幸せを掴む事が出来たのであった。
【大門寺トオルの告白⑱】

「じゃあクリス副長、早速、冒険者ギルドへ行ってきま~す」

 今朝も……
 リュカが元気良く、王都騎士隊本部から出かけて行く。
 奴は3か月の期間限定出向先である、冒険者ギルド総務部へ向かうのだ。

「おう! ご苦労様。頑張れよ、バジル部長に宜しくな」

「はいっ! 副長、了解でっす」

 気合が入りまくりのリュカは、最近仕事ぶりも真面目で前向きだ。
 原因は、はっきりしている。

 最近……
 奴には、可愛い彼女が出来たのである。

 え?
 可愛い彼女って?
 リュカがひとめぼれした、枢機卿の孫娘・創世神教会所属の聖女ステファニー殿かって?
 いやいや、全然違う子なんだ。

 じゃあ、順を追って最初から話そうか。
 
 実は……
 俺がアランに殴られた『合コン』から、もう半年が経っている。

 あの夜から、俺はフルールさんことリンちゃんと恋人同士になり、
 夢にまで見た交際を始めた。
 ワンルームであれやこれやと想像したリア充生活を、遂にこの異世界で実現したのだ。
 
 俺がリンちゃんと結婚すれば……
 フルールさんの伯父であるバジル部長とは、親せきとして、
 一生付き合う事となる。

 あの時、部長のフォローは実に大きかった。
 部長があの場に居て、上手く話をしてくれたからという感謝の気持ちでいっぱいだ。
 公私共々、文句なくバジル部長は俺の恩人。
 『愛の伝道師』の名誉ある称号を譲ってもOK。
 リンちゃんに、そのように伝えたらすっごく複雑な顔をしていたけど……
  
 話をリュカへ戻すと……
 当然というか、あれから奴はステファニー殿に振られた。
 
 それも、相当悲惨な振られっぷりだったらしく、
 しばらく、この世の終わりのような顔をしていた。
 俺との『約束』を守らず、スタンドプレーに走るしょうもない奴だが、
 見捨てるにはしのびない。

 俺は副長の権限を使い、傷心のリュカのやる気を出させる為……
 気分転換を兼ね、期間限定で職場と仕事を変えてやったのである。
 
 俺自身がやりとりをして分かってはいたが、
 バジル部長を始めとして、冒険者ギルド総務部のメンバーは皆、良い人達だ。
 人間関係で、変なストレスを溜める事もない。

 但し、仕事をきちんと真面目にやって貰わないと、
 騎士隊とギルドの信頼関係を失ってしまう可能性がある。
 なので、俺はリュカへ厳しく言った。

 「一旦約束したら、しっかり守れ」と。

 大失恋が原因で精神的に落ち込んでいるから、少し可哀そうな気もしたが……
 因果応報ともいえる結果といえなくもない。
 ここは上司として、または先輩として、しっかり言わないと奴の為にならない。

 「ちゃんとフォローするから、新たな仕事を頑張れ」と、優しく励ました上で、
 「あまりにも不真面目なら、即、除隊もある」と脅したのが効いた。
 完全に心を入れ替えたリュカは、日々頑張って、真面目に仕事をしていたらしい。

 リュカが、ひたむきに仕事に打ち込めば、きっと見てくれる人は居る。
 俺は……そう信じた。
 
 すると、「捨てる神あれば拾う神あり」という諺《ことわざ》通り……
 リュカにも素晴らしい奇跡が起こった。

 傷心のリュカの身に起こった素晴らしい奇跡。
 それは……冒険者ギルド所属の魔法鑑定士ルネさんとの運命の出会いであった。
  
 リュカから内緒という事で聞かされたが……
 ルネさんはそれまで付き合っていた『わがまま彼氏』に悩まされていたという。
 普段から凄い不満を持っていたらしい。
 
 なんやかんやあったらしいが……
 結局ルネさんは大げんかの末に『わがまま彼氏』と別れ……
 驚いた事に、リュカと「くっついてくれた」のだ。
 
 ふたりが親しくなったきっかけだが……
 目の前で仕事に一生懸命取り組むリュカの姿を見て、ルネさんは信頼し、
 プライベートの相談を持ちかけたんだと。
 それも、何度も何度も……
 
 結果、ふたりが仲良くなるのは必然。
 最終的にはリュカがルネさんの愚痴をこまめに聞いて、
 その度に優しく慰めてあげたのが決め手となった。

 正式に付き合いだしてから……
 ルネさんは以前の彼氏と違い、喧嘩など全くなく、リュカと仲良くやっているらしい。
   
 こうなると……
 冒険者ギルドへ配置転換して貰ったリュカは、俺に感謝しきりだ。
 
 ルネさんとは結婚も視野に入れた深い付き合いをしていて、
 仕事にもますます気合が入り、良い巡り合わせとなっている。
 
 ちなみに、ルネさんは、リュカより少しだけ年上。
 しかし奴みたいなタイプは、『姉さん女房』の方が良いかもしれない。

 え?
 合コンのメンツがあれからどうなっているのか、気になるって?
 
 バッチリさ!
 全員、上手くやっている。

 『赤い流星』アランは、宣言通り、ジョルジェットさんとすぐに結婚した。
 結婚直後、リンちゃんと共に新婚家庭に招かれたが、相変わらず熱々だった。

 そしてこちらも予想通り……
 カルパンティエ公爵家の御曹司であるジェローム隊長も、
 シュザンヌさんと最近婚約。
 
 聖女であるシュザンヌさんの出自は騎士爵家の娘であるが、最近の風潮から身分の差は問題ないと思われた。
 
 でも、さすがカルパンティエ家は古風で保守的な名門貴族。
 今どきの風潮だからと、簡単にジェロームさん達の結婚を認めなかった。
 
 ジェロームさんの父カルパンティエ公爵が身分に加え、
 俺から見れば本当に失礼だとは思うが……
 ジェロームさんより年上のシュザンヌさんの年齢(推定30歳)を理由に猛反対したのだ。
 
 しかしジェロームさんは、
 「愛はすべてに勝る! 俺はシュザンヌを愛している!」
 と強硬に父の公爵へ主張。
 騎士隊隊長の仕事にも勝る熱意と真剣さで、堂々と押し切ったそうである。
 
 こうなると、シュザンヌさんは大感激。
 その場で号泣したらしい。
 結果……
 こちらも今や、アラン達以上ともいえる相思相愛のあつあつカップルだ。
 
 こうしてめでたくジェロームさんはめでたく幸せを掴んだ。
 元々彼はとても義理堅い人である。
 
 今後も俺とは一生末永く付き合いたいと言って来た。
 こちらとしても、願ったり叶ったりである。

 そして、風の便りに聞いた話だと……
 ステファニー殿も祖父枢機卿の手配でお見合いをして、
 イケメンで真面目な相思相愛の彼氏を見つけたという。

 結局……
 あの夜、俺と関わったメンバーは、全員カップルとなってしまった。
 この異世界でも、俺の『愛の伝道師キャラ』はバッチリ生きていたということになる。
 
 最後に……
 かんじんの俺とリンちゃん、すなわちこの異世界ではクリストフ・レーヌとフルール・ボードレールの現状はといえば、付き合いだしてから交際はいたって順調である。

 ああ、恋愛するって嬉しい。
 本当に楽しい。

 そしてリンちゃんとの付き合いが深くなり、いろいろと話した結果、
 運命的な驚愕の事実が発覚した。

 何と!
 幼い頃、俺達ふたりは出会っていた。
 引っ越しで離れ離れになった、初恋のあの子がリンちゃんだったのだ。

 何という、運命的な出会いだろう。
 感動した俺は絶対に、彼女を幸せにすると決意したのだ。

 こうして……
 一旦失った初恋を見事に成就させた俺は……
 リンちゃんの親にも挨拶して、結婚を認めて貰い、新居も決まった。
 俺達は来月、結婚式を挙げる事となった。

 実は、今日が結婚式の衣装合わせの日である。
 式場は当然ながら創世神教会付属の結婚式場。

 こんな日は、時間が過ぎるのを遅く感じるが……
 俺は地道に仕事をこなすと、定時より少しだけ早めに王都騎士隊本部を退出した。
 前もって根回しをしてあるから、誰もが気持ちよく送ってくれた。

 騎士隊本部を出た俺は走る。
 王都の石畳の道を、教会へと、ひたすら走る。
 息が切れても、構わず走る。

 いよいよ!
 リンちゃんの、花嫁姿が見れるのだから。
 もう胸が、高鳴りっぱなしだ。

 先に衣装合わせを始めると言っていたから多分……

 教会付属の式場へ到着した俺は、受付で部屋を聞くと、一目散に向かう。
 衣装部屋に着いて、ひと呼吸置いてノックをした。

「クリスです!」

「はい! フルールです」

 中からは、リンちゃんの声がした。
 そして、一瞬の間を置き、

「……どうぞ」

 と、入室が許可されたので、俺は扉を開けて部屋へ入る。
 すると!

 俺の目の前には、着付けの担当の女性、
 そして、純白の花嫁用ドレスを着たリンちゃんが立っていた。
 
 おお、リンちゃん!
 何という神々しさ!
 この素晴らしい衣装を俺の為に着てくれるなんて、大感激だ。

 俺は着付けの女性に一礼すると、彼女は気をきかせ、部屋を出てくれた。
 こうなったら、もう遠慮はいらない。

「綺麗だ!」

「本当?」

 リンちゃんはにっこり笑って白い手袋をした手を差し出す。
 俺は彼女の手をしっかり握った。
 温かく、柔らかい手が嬉しい。
 
 ああ、この手だ。
 初めてのデートでおずおずと差し出した俺の手を、君はしっかり握ってくれた。
 
 本当は……
 幼い頃、彼女の手を握っていたけれど……
 
 俺はこの手を、もう二度と……
 否、永久に! 絶対に! 離しはしない。
 
 ふたりがつないだ手……
 それはまるで、しっかりと交差した運命の輪のように見える。

 俺は心の中で、リンちゃんへ呼びかける……

 そう、初めて会った幼い日に……
 リンちゃん、俺は恋に落ちた。
 淡い初恋だった。
 
 そして再会した時に……
 大人となった素敵な君に改めて惚れ直したんだ。
 
 だが、悪戯好きな神様は残酷だった。
 異世界転移し、初恋の相手リンちゃんと離れ離れになった俺に、
 最初は絶望しかなかった。
 
 しかし、奇跡は起こった……
 リンちゃん!
 君も、この異世界へ転移して来たんだ。
 
 だけど、いくら転移したって……
 この広い異世界、数多の人が居る中で……
 ふたりの再会なんて、限りなくゼロに等しい確率なのに……
  
 離れ離れになったふたりの人生は再び……交差した。
 
 そう!
 再び素晴らしい奇跡が起こったんだ。
 
 結果……
 俺とリンちゃんは、起こりえない奇跡を経て、
 強く深い『愛の絆』を結び直す事が出来た。
 
 改めて実感する。
 リンちゃんの美しい花嫁姿を見て、俺は今、はっきりと確信する。
 
 遥か遠い……
 まるでラノベのようなこの異世界で……
 遂に俺は……
 宿命の相手に巡り会う事が出来たのだと。
【相坂リンの告白⑲】
 
 時が流れ……
 トオルさんがアランさんに殴られた、運命の『食事会』事件から、もう既に半年が経っている。

 あの夜から……
 私はクリスさんことトオルさんと正式に恋人同士になり、交際を始めた。
 
 当然、将来の結婚を意識した深い付き合いである。
 お互いの休日に会う度、話も弾み、
 幼い子供の頃の想い出を話した結果、『衝撃の事実』が発覚した。

 衝撃の事実、何と!
 幼い頃、私達ふたりは既に出会っていた。
 
 親友アリサが、たまたま手配してくれた飲み会で出会った『大門寺トオル』さんは……幼い頃、私の引っ越しで離れ離れになった、あの『初恋のトオル君』だったのだ。

 何という……
 数奇な運命なのだろう。
 
 未知の異世界へ転移した私とトオルさんは、劇的な再会を果たすどころか、
 記憶の底に沈んでいた淡い初恋を実らせ、結ばれたのだもの。
 
 私見だけど……
 幼い頃経験した生まれて初めての恋が実り、ずっと愛し合い結婚する人なんてあまり居ないと思う。
 そんな劇的な理由もあり、私達ふたりの愛は更に深まって行った。

 でも、ひとつだけ困った事がある。
 私がこのままトオルさんと結婚すれば……
 疎遠になっていた伯父バジルとは、親戚付き合いが完全に復活するから。

 まあ普通に、親戚付き合いするレベルなら全く構わない。
 私はバジル伯父の伴侶、伯母とはとても気が合うから。

 だが、バジル伯父は相変わらず苦手。
 伯父の事だ。
 私を見合いの仲介で『幸せにしたコレクション』のひとつとし、
 何かあれば自慢し、得意げに手柄話を繰り返すだろう。

 数回くらいの自慢なら、何とか我慢するけれど……
 多分、数十回は……
 
 否! それ以上際限なく繰り返し聞かされるに違いない。
 あの満面顔のおまけ付きで。
 加えて恩着せがましく。
 
 う~ん、想像するだけですご~く辛い。

 でも……
 トオルさんはバジル伯父とは抜群に相性が良いみたい。
 公私共々、文句なく最高の恩人だと言う。
 挙句の果てに『愛の伝道師』の称号をバジル伯父へ譲ってもOKだって。
 
 そんな事はいけないと思うけど、私は思わず顔をしかめてしまった。
 
 まあ……仕方がない。
 後でさりげなく、伯父とのこれまでの経緯(いきさつ)というか、
 顔をしかめた『本当の理由』だけは話しておこう。
 
 実はずっと……
 伯父からしつこく勧められたお見合いの話を断っていたって。
 
 正直に言えば、優しいトオルさんなら、絶対に怒らないはず。
 断り続けた結果、私はトオルさんとめでたく結ばれるのだから。
     
 え?
 食事会のメンバーはあれからどうなっているのかって?
 
 大丈夫!
 全員、上手くやっているよ。

 懺悔し改心したシスタージョルジエットは……
 『赤い流星』ことアランさんのプロポーズを受け、すぐに結婚した。
 結婚直後、私はトオルさんと共に新婚家庭に招かれたが、
 ふたりは相変わらず熱々だった。

 そしてシスターシュザンヌも、カルパンティエ公爵家の御曹司、
 ジェロームさんと最近婚約した。
 
 ある日、シスターシュザンヌから、こっそり呼び出された私は、
 例の部屋でふたりきりとなり、彼女から婚約までの一部始終を聞いた。

 前にも述べたけれど、シスターシュザンヌの出自は騎士爵家。
 対してカルパンティエは公爵家。
 
 ふたりの身分差は歴然。
 でも……
 最近の風潮から身分の差は問題ないと思われた。
 
 しかし結婚話は結構難航したらしい。
 何故ならばカルパンティエ公爵家は、予想以上に古風で保守的な家風だったから。
 やはりというか、身分差を理由にし、頑なにシスターシュザンヌとの結婚を認めなかった。
 
 そしてジェロームさんの父、当主のカルパンティエ公爵が身分の差に加え、
 本当に失礼な話で、他人事なのにとっても腹が立つけれど……
 ジェロームさんより、ほんの少しだけ年上であるシスターシュザンヌの年齢を理由に猛反対したらしい。
  
 しかしジェロームさんは、騎士らしく、勇ましかった。
 人間としても誠実で素晴らしかった。
 「愛はすべてに勝る! 俺はシュザンヌを心の底から愛している!」
 父の公爵閣下へ、熱く真摯に宣言し、臆せず堂々とした態度で押し切ったって。

 そこまで言って貰えれば女性なら、誰だって嬉しい。
 当然ながらシスターシュザンヌは感極まってしまい、
 その場で人目もはばからず大泣きしてしまったって。
 
 そして何と!
 ジェロームさんも、号泣するシスターシュザンヌを、
 彼のご両親の目の前で優しく抱き締めたんだって!

 うわ!
 凄い!
 想像するだけで、どっきどき!
 
 まるで素敵な恋愛映画のワンシーン。
 私とトオルさんの出会いに匹敵するくらい、運命的な出会いだと思う。
 
 結果……
 ふたりは相思相愛のあつあつカップルになっちゃった。

 こうして……
 シスターシュザンヌは大きな幸せを掴んだのだ。
 
 あの場で恋愛フォローした私へ、シスターシュザンヌは凄く恩義を感じているようだ。
 今後も『特別な親友』として末永く付き合いたいと言って来た。
 こちらとしても、職場の人間関係が向上するのは願ったり叶ったり。

 親友といえば……
 シスターシュザンヌと話をしながら、
 ふと、前世で親友付き合いしていた『アリサ』の事を思い出した。
 
 アリサは、私の事をいろいろ心配して、世話を焼き、
 運命の想い人・トオルさんに再会させてくれた超が付く恩人。
 
 でも私は、遥かに遠い異世界の人間フルールとなってしまった。
 アリサとは離れ離れとなってしまい、もう二度と会う事はないだろう……
 
 だけど……
 彼女が『最も大切な親友』という事実は永遠に変わらない。

 ああ、今頃アリサはどうしているのだろう……
 突然いなくなった私をとても心配しているに違いない。 
 
 耳をすませば……どこからともなくハスキーなアリサの声が聞こえて来る。
 「はぁい、リン、元気? 恋してる?」って。
 だから私は心で応える。
 「大丈夫! とても元気だよ! ず~っと素敵な初恋をしていたよ」と。
 
 しっかりと報告したら、次はアリサへお礼とエールを送りたい。
 
 「さよなら、アリサ! 今迄本当にありがとう! 貴女のお陰で初恋が実ったよ! 貴女もずっと元気で、そして絶対幸せになって!」  
 今や聖女の私は遠い空の下から「願いよ届け!」とばかりにお祈りしてしまった。
 
 ああ、そうだ。
 もうひとつあった。
 こちらは余談になるけれど……
 
 シスターステファニーは、彼女のお祖父様、枢機卿閣下のご手配でお見合いをした。
 その結果、シスターステファニーも、彼女好みのイケメンで且つ真面目な、相思相愛の彼氏を見つけた。
 
 ここまでは聞いていたが、その彼とめでたく婚約をしたそうである。
 『恋のライバル』だった私は……少しだけ、ホッとした。
 
 結局……
 あの夜、参加したメンバーは、全員カップルとなってしまった。
 この異世界でもトオルさんの、
 『愛の伝道師キャラ』はバッチリ生きていたという事。
 
 話を戻そう。
 私とトオルさんの愛が深まると同時に、結婚話もとんとん拍子に進んだ。
 
 先日、私フルールの両親へ、クリスさんことトオルさんがきちんと挨拶。
 結婚を円満に認めて貰い、新居も決まった。
 
 こうして……
 私達は来月、結婚式を挙げる事となったのだ。

 実は、今日が結婚式の衣装合わせの日である。
 当然ながら結婚式と披露宴を行うのは創世神教会と附属の式場で決まり。

 こんな日は、時間が過ぎるのを遅く感じる。
 
 だけど……
 私は『お勤め』をこなすと、定時より少しだけ早めに教会を出た。
 前もって根回しをしてあるから、誰もが気持ち良く送ってくれた。

 トオルさんは今日、仕事が終わったら、駆け付けてくれる事になっている。
 私が着る純白のウエディングドレスを見て、何と言ってくれるだろうか?

 衣装部屋に着いてから、着付け担当の女性に手伝って貰い、
 何とか支度が終わった。

 しばらくして……ノックがあった。
 絶対にトオルさんだろう。

「クリスです!」

「はい! フルールです」

 私は元気に返事をして、軽く息を吐いた。
 そして、

「……どうぞ」

 と、当然ながら入室をOKした。

 トオルさんは扉を開け、部屋へ入って来た。
 対して、私は堂々と胸を張り、トオルさんの前に立った。
 
 ああ、トオルさん、にこにこしている。
 とても嬉しそうだ。
  
 そしてトオルさんが着付けの女性に一礼すると、
 彼女は気をきかせ、部屋を出てくれた。
 こうなったら、もう遠慮はいらない。
 
 トオルさんは私の花嫁姿を見て、感極まったみたい……
 たったひと言。
 とても嬉しい事を言ってくれる。 

「綺麗だ!」

「本当?」

 私は自分でも分かる弾けるような笑顔で、白い手袋をした手を差し出した。
 トオルさんは応えるように手を伸ばし、私の手をしっかりと握ってくれた。
 彼の大きく、温かい手が感じられる。
 嬉しい!
 
 ああ、この手だ。
 幼い頃の記憶がリフレインする。
 手をつなぐのがとってもぎこちなかった初恋のトオル君、
 そして、大人になっても全く変わらず、初デートの時おずおずと手を差し出して来たトオルさん……
 初恋の相手である生涯の『想い人』……
 彼の手を私はしっかりと握った。
 
 初恋の時には不可抗力で離してしまったけれど……
 未知の異世界へ転移して、ほぼ諦めていたけれど……
 私は……トオルさんの手を、もう二度と離さない。
 
 ふたりが3度目につないだ手……
 それは、しっかりと交差した運命の輪。

 私は心の中から、トオルさんへ呼びかける……
 
 私、相坂リンは幼い頃に初恋を経験し、そしてついこの前二度目の恋をした……
 でも人生で愛した想い人はトオルさん、貴方ひとりだけなのだと。
 
 最初は絶望しかなかった。
 この広い異世界にトオルさんが居るはずがないのに……
 ふたりの再会なんて、全くありえないはずなのに……
 
 離れ離れになったふたりの人生は、奇跡的に再び交差した。
 
 胸が熱くなった私は改めて実感する。
 花嫁姿になって、はっきりと確信する。

 遥か遠いラノベの舞台のようなこの異世界で……
 遂に私は……
 運命を超える宿命の『想い人』に巡り会う事が出来たのだと。《完結》

※長らくのご愛読ありがとうございました。
 『転生聖女は幼馴染みの硬派な騎士に恋をする』は今回の話でお終いです。
 今後とも当作品、連載中の作品、新たな作品に対してのご愛読、応援を何卒宜しくお願い致します。《東導 号》

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