【大門寺トオルの告白⑭】
凄まじい万力のように、俺を抱き締めていたジェロームさんは……
5分ほど、そのままだった。
だが……
さすがに飽きたのか、解放してくれた。
ちなみに、たった5分だが、凄く長~く感じた。
と、いうわけで……
ようやく身体を離され、安堵した俺は、
未だ荒い息で、思いっきり噛みながら尋ねる。
「はぁ、はぁ、はぁ……で、で、ではっ!」
「おう!」
「お、俺が、ジェローム将軍の軍師、もしくは参謀ということで……よ、宜しいですね?」
「おお! 構わない! 今夜の『聖女攻略大作戦』……成功は軍師である、お前の指示にかかっている」
あれ?
ジェロームさん……『聖女巫女攻略大作戦』って……
機嫌が完全に直ってる。
ああ、良かった。
それどころか、却ってノリノリになっている。
落ち着いた俺がジェロ―ムさんと、改めて色々話すと……
結構ユーモアがある人だって事も分かった。
硬派で真面目なのは既に分かっていたけれど、実に意外だった。
俺と同じ甘党同士という事で、趣味もバッチリ合いそう。
これなら、更に良き上司となってくれる。
そして、こんな時は、素直に告げておいた方が良い。
俺がさりげなく、
「真向かいのフルールさんが気に入った」と伝えたら、
ジェロームさんは、協力しようと返してくれた。
これで良し!
多分、誠実なジェロームさんは裏切らないだろう。
リュカが気にはなるが、リンちゃんは身持ちが堅いし、俺ひと筋……
とりあえず、今夜は上手く行きそうだ。
こうして……
俺とジェロームさんは個室『宝剣の間』へ無事、帰還した。
「ただいま、戻りました!」
「おう! 戻ったよ!」
俺とジェロームさんは、大きな声で帰還宣言をして、元の席に座った。
「お帰りなさい~! 待ってたわ」
「ただいまっ」
おお、リンちゃんたら、
気を利かせて、嬉しい事を言ってくれる。
相変わらず爽やかな、笑顔もまぶしい。
俺もつられて笑顔で元気よく返事をした。
そして「ええっと、他のメンツは?」と、俺が見やれば……
特に気になっているのは……
空気詠み人知らずのジェロームさんから余波を受けたシュザンヌさん。
このままではでは、とても可哀そうだから、必ずケアしないといけない。
そして……
アランとジョルジェットさんは幹事同士、
相変わらず『ふたりきりの世界』に入っている。
ぶっちぎりで不機嫌MAXなのが……
好みではないらしいリュカの相手をずっとしている枢機卿の孫娘ステファニー殿だ。
片や、リュカは必死だけど、顔には少々の疲れと大きな焦りの色が見えている。
場の空気が、……澱んでいる。
ちょっとだけ、流れを変える必要がありそうだ。
そうだ!
最初に決めたルール通り、時計回りで席替えをするのが吉。
愛するリンちゃんと、離れるのは、正直辛いが……
ライバル達の目標は見えている。
ジェロームさんには根回しをバッチリしたし、リンちゃん対策はもう大丈夫。
よし、決めた。
それしか方法は、ないだろう。
「ええと……そろそろ席替えを……」
アランから司会進行役を任された俺が、そう言った瞬間。
どかんっ!
ミシッ!
「わっ!」
「ああっ!」
「きゃっ!」
誰かが、床を思い切り踏んだ。
吃驚して、音がした方を「そうっ」と見れば……
アランの傍の床が半壊していた。
迷宮の古い敷石には、大きな亀裂が入っている。
おお!
何という、パワー。
さすが、赤い流星。
戦いと恋のパワーは、共に常人の10倍らしい……
しかしアラン本人は、視線をこちらへ動かさず、
標的であるジョルジェットさんをじっと見つめたままだ。
おお!
凄い集中力である。
し、しかし、床を破壊したこのデモンストレーションは?
一体どのような意味があるのだろう?
暫し考えた俺にはピンと来た。
そうか、分かったぞ。
まだ、席順を動かすな!
そういう指示……だよな?
分かった!
アランよ、了解だ!
合コンの極意って、全てにおいて、臨機応変さに尽きる。
雰囲気が、凄く微妙だが……
気を取り直して、仕切り直しと行こう!
でも、さすが。
アランは公私混同せず、この微妙な状態を放置しなかった。
結局、「あと10分、席を現状のままで」と、
彼自身の口から延長申し入れがあった。
そうか……
あと、10分あれば……
「標的のジョルジェットさんを、確実に落とす」という意味だろう。
ここでアランの『意向』を、ジェロームさんだけは伝えておく事にした。
さすがに、分かってはいるだろうが……
戦いとは違い、恋に関しては経験値が絶対的に少ない、
真面目過ぎるジェロームさんだ。
常に、俺は万全を期す。
ただし、声が大きくなってはまずい。
なので、小声で話すようにも言う。
「ジェローム将軍、アラン参謀の目標は……ジョルジェットさんです」
「ふうむ、我が軍師よ……あのジョルジェットという娘の優先交渉権は、この会の発案者であるアランの既得権……という事だな」
優先交渉権?
既得権?
何か、表現が凄く政治的だ……
でも、当たってるし、そういう事。
さすが、ジェロームさんは上級貴族。
女子への接し方はともかく、このような話の理解は素早い。
まあ、良い。
『軍師』の俺も愚図愚図せず、早速、作戦開始だ。
さあ、話題を変えよう。
ジェロームさんが……
つまり『将軍』が得意にしている、あのネタを振らないと!
俺は、場の空気を和らげる為、またもおどけた表情を見せる。
ははは、俺は完全におとぼけキャラ。
元のクリスにはすまないと思うが、もうやけくそ。
「シュザンヌさん! フルールさん! お菓子は好き?」
「大好き!」
「超好き!」
やっぱりだ。
女性で、お菓子が嫌いな人は見た事がない。
ふたりとも、満面の笑みで応えてくれた。
良いぞ!
会話が、少しずつ、盛り上がって来た。
よっし、ここはジェロームさんの為に、更なるフォローだ。
話題を、シュザンヌさんへ振ろう。
「シュザンヌさんは、お菓子とか、ご自分で作ったりするのですか?」
「ええっと、私は、あまり……」
俺の質問に対し、シュザンヌさんが、極端にトーンダウンしてしまう。
彼女はあまり、料理やお菓子つくりが得意ではないらしい。
おお、これは凄いチャンスだ。
俺は、ジェロームさんにこっそりと囁いた。
「チャンスです、ジェローム将軍、作戦を開始しましょう」
「うむ!」
「ほうらシュザンヌさんが、お菓子の事で困っていますよ。女性に、優しくするのが騎士の本分でしょう?」
「おお、クリストフ。さすが我が軍師、ナイスフォローだ」
ジェロームさんは笑顔で頷くと、
シュザンヌさんへ、大きな身振りで話しかけたのである。
凄まじい万力のように、俺を抱き締めていたジェロームさんは……
5分ほど、そのままだった。
だが……
さすがに飽きたのか、解放してくれた。
ちなみに、たった5分だが、凄く長~く感じた。
と、いうわけで……
ようやく身体を離され、安堵した俺は、
未だ荒い息で、思いっきり噛みながら尋ねる。
「はぁ、はぁ、はぁ……で、で、ではっ!」
「おう!」
「お、俺が、ジェローム将軍の軍師、もしくは参謀ということで……よ、宜しいですね?」
「おお! 構わない! 今夜の『聖女攻略大作戦』……成功は軍師である、お前の指示にかかっている」
あれ?
ジェロームさん……『聖女巫女攻略大作戦』って……
機嫌が完全に直ってる。
ああ、良かった。
それどころか、却ってノリノリになっている。
落ち着いた俺がジェロ―ムさんと、改めて色々話すと……
結構ユーモアがある人だって事も分かった。
硬派で真面目なのは既に分かっていたけれど、実に意外だった。
俺と同じ甘党同士という事で、趣味もバッチリ合いそう。
これなら、更に良き上司となってくれる。
そして、こんな時は、素直に告げておいた方が良い。
俺がさりげなく、
「真向かいのフルールさんが気に入った」と伝えたら、
ジェロームさんは、協力しようと返してくれた。
これで良し!
多分、誠実なジェロームさんは裏切らないだろう。
リュカが気にはなるが、リンちゃんは身持ちが堅いし、俺ひと筋……
とりあえず、今夜は上手く行きそうだ。
こうして……
俺とジェロームさんは個室『宝剣の間』へ無事、帰還した。
「ただいま、戻りました!」
「おう! 戻ったよ!」
俺とジェロームさんは、大きな声で帰還宣言をして、元の席に座った。
「お帰りなさい~! 待ってたわ」
「ただいまっ」
おお、リンちゃんたら、
気を利かせて、嬉しい事を言ってくれる。
相変わらず爽やかな、笑顔もまぶしい。
俺もつられて笑顔で元気よく返事をした。
そして「ええっと、他のメンツは?」と、俺が見やれば……
特に気になっているのは……
空気詠み人知らずのジェロームさんから余波を受けたシュザンヌさん。
このままではでは、とても可哀そうだから、必ずケアしないといけない。
そして……
アランとジョルジェットさんは幹事同士、
相変わらず『ふたりきりの世界』に入っている。
ぶっちぎりで不機嫌MAXなのが……
好みではないらしいリュカの相手をずっとしている枢機卿の孫娘ステファニー殿だ。
片や、リュカは必死だけど、顔には少々の疲れと大きな焦りの色が見えている。
場の空気が、……澱んでいる。
ちょっとだけ、流れを変える必要がありそうだ。
そうだ!
最初に決めたルール通り、時計回りで席替えをするのが吉。
愛するリンちゃんと、離れるのは、正直辛いが……
ライバル達の目標は見えている。
ジェロームさんには根回しをバッチリしたし、リンちゃん対策はもう大丈夫。
よし、決めた。
それしか方法は、ないだろう。
「ええと……そろそろ席替えを……」
アランから司会進行役を任された俺が、そう言った瞬間。
どかんっ!
ミシッ!
「わっ!」
「ああっ!」
「きゃっ!」
誰かが、床を思い切り踏んだ。
吃驚して、音がした方を「そうっ」と見れば……
アランの傍の床が半壊していた。
迷宮の古い敷石には、大きな亀裂が入っている。
おお!
何という、パワー。
さすが、赤い流星。
戦いと恋のパワーは、共に常人の10倍らしい……
しかしアラン本人は、視線をこちらへ動かさず、
標的であるジョルジェットさんをじっと見つめたままだ。
おお!
凄い集中力である。
し、しかし、床を破壊したこのデモンストレーションは?
一体どのような意味があるのだろう?
暫し考えた俺にはピンと来た。
そうか、分かったぞ。
まだ、席順を動かすな!
そういう指示……だよな?
分かった!
アランよ、了解だ!
合コンの極意って、全てにおいて、臨機応変さに尽きる。
雰囲気が、凄く微妙だが……
気を取り直して、仕切り直しと行こう!
でも、さすが。
アランは公私混同せず、この微妙な状態を放置しなかった。
結局、「あと10分、席を現状のままで」と、
彼自身の口から延長申し入れがあった。
そうか……
あと、10分あれば……
「標的のジョルジェットさんを、確実に落とす」という意味だろう。
ここでアランの『意向』を、ジェロームさんだけは伝えておく事にした。
さすがに、分かってはいるだろうが……
戦いとは違い、恋に関しては経験値が絶対的に少ない、
真面目過ぎるジェロームさんだ。
常に、俺は万全を期す。
ただし、声が大きくなってはまずい。
なので、小声で話すようにも言う。
「ジェローム将軍、アラン参謀の目標は……ジョルジェットさんです」
「ふうむ、我が軍師よ……あのジョルジェットという娘の優先交渉権は、この会の発案者であるアランの既得権……という事だな」
優先交渉権?
既得権?
何か、表現が凄く政治的だ……
でも、当たってるし、そういう事。
さすが、ジェロームさんは上級貴族。
女子への接し方はともかく、このような話の理解は素早い。
まあ、良い。
『軍師』の俺も愚図愚図せず、早速、作戦開始だ。
さあ、話題を変えよう。
ジェロームさんが……
つまり『将軍』が得意にしている、あのネタを振らないと!
俺は、場の空気を和らげる為、またもおどけた表情を見せる。
ははは、俺は完全におとぼけキャラ。
元のクリスにはすまないと思うが、もうやけくそ。
「シュザンヌさん! フルールさん! お菓子は好き?」
「大好き!」
「超好き!」
やっぱりだ。
女性で、お菓子が嫌いな人は見た事がない。
ふたりとも、満面の笑みで応えてくれた。
良いぞ!
会話が、少しずつ、盛り上がって来た。
よっし、ここはジェロームさんの為に、更なるフォローだ。
話題を、シュザンヌさんへ振ろう。
「シュザンヌさんは、お菓子とか、ご自分で作ったりするのですか?」
「ええっと、私は、あまり……」
俺の質問に対し、シュザンヌさんが、極端にトーンダウンしてしまう。
彼女はあまり、料理やお菓子つくりが得意ではないらしい。
おお、これは凄いチャンスだ。
俺は、ジェロームさんにこっそりと囁いた。
「チャンスです、ジェローム将軍、作戦を開始しましょう」
「うむ!」
「ほうらシュザンヌさんが、お菓子の事で困っていますよ。女性に、優しくするのが騎士の本分でしょう?」
「おお、クリストフ。さすが我が軍師、ナイスフォローだ」
ジェロームさんは笑顔で頷くと、
シュザンヌさんへ、大きな身振りで話しかけたのである。