【相坂リンの告白⑩】
僅か5分後……
魔導昇降機から降りた私とトオルさんは、
しっかり手をつないで迷宮の8階、ショッピングモールを歩いている。
このショッピングモールは、アクセサリー店、洋服店、雑貨店等たくさんの商店があって、結構な人が居た。
皆、楽しそうに買い物をしている。
買い物をしているのは、最初からカップル同士で来たのか、それとも私達みたいにこの会場でカップルになったのかは分からない。
だが、若い男女のふたり連ればかりだった。
ああ、これって……
転生する前の私が、望んでいたデートコースのひとつだ。
次回のデートは私、トオルさんとふたりでショッピングを兼ね、映画を見に行きたいと思っていたから。
前世……
兼ねてから行きたいと思っていたお洒落なショッピングモールの奥には……
これまたカッコいい映画館があった。
今は、複数の映画館が入っているから、『シネコン』って言うんだっけ。
そこで、超が付く話題の大ヒット恋愛映画をやっていた。
結末を事前に知っちゃうと、つまらないけれど、
ハッピーエンドって事だけはチェック済み。
だから見た後は、幸せな気分に浸れる。
昨日、話した時に確かめたけど、
私もトオルさんも仕事が忙しくてまだ見ていなかった。
まあ、異世界転移した私達ふたりが今居るのは西洋中世風異世界。
さすがに、迷宮を改造したこのショッピングモールにシネコンは無い。
というか、映画自体が存在しない。
あるのはオペラみたいな芝居を上演する劇場らしい。
でも……それはそれで見てみたいと思う。
そんな悠長な事を考えている場合ではなかった。
今置かれている状況は前世で想像した通り。
トオルさんとふたりでデートしているという素敵なシチュエーション。
だけど、トオルさんの彼女の有無……
つまり『現実』を確かめるのが凄く怖い。
現実さえ知らなければ……今だけは私、確実に幸せいっぱいなんだけど。
つらつらいろいろ考えているうちに……
私達はショッピングモールのカフェに入った。
席はほぼ満席だったが、幸い一番奥の席が空いていた。
期待と不安が入り混じった複雑な気持ちの私は、
「きゅっ」とトオルさんの手を握った。
するとトオルさんも、「ぎゅ」と握り返して来る。
最高の、爽やか笑顔付きで。
微妙な雰囲気が漂う中、
私達は着席した。
メニューは紅茶しかない。
銘柄も記載なし。
なのでトオルさんが紅茶をふたつ頼んでくれた。
紅茶が来るまでの間がまた微妙……
ああ、私……もう我慢出来ない。
怖いけど……聞いちゃおう。
そしてもし、特別な『彼女さん』が居るんだったら……
思い切って!
トオルさんへ、言ってしまおう。
ラノベの敵役《かたきやく》、つまり悪役令嬢みたいで、嫌だけど。
「私を選びなさい」って!
手段を選ばず、強引に迫ってしまおう!
だって!
ここで迷っていたら、諦めてしまったら……
もう二度とこんな奇跡は起こらない。
そんな気がしたから。
よ~し、決めた!
言うぞっ!
「あ、あの……」
ああ、私って、小心者。
これだけ強い決意をしたのに……
また噛んじゃった……ダサ!
でも!
トオルさんも慌ててる。
もしかして何か、感じた?
騎士として、長年の実戦で鍛えられた野生のカンって、事?
「な、何!?」
ああ、トオルさん、果たして私から何を言われるのか、
「どきっ!」としてるみたい。
よっし!
仕切り直しの、リスタート!
でも、ビビりっ子の私は、くちごもりながら恐る恐る尋ねる。
「トオルさん……こ、怖いけれど……お聞きしても宜しいですか?」
「こ、怖いけれどって?」
「はい! あの……トオルさん……」
「は、はい!」
「ト、トオルさんには! こ、婚約者、もしくは特別な彼女さんって、いらっしゃいますかっ?」
言った!
遂に言ってしまった!
「ええっ!? こ、婚約者ぁ!」
ああ、トオルさんったら、凄いオーバーリアクション。
これって、もしや……駄目?
私の想いは通じないの?
だって!
異世界転移した今のトオルさんは王都貴族、レーヌ子爵家の当主。
その上、女子達の憧れ『王都騎士隊』の硬派な副長。
筋骨隆々の渋いイケメン。
肩書きといい、全体的な雰囲気といい、、
やはり、あの土方様に似ている。
《まあ、当人に会ったわけじゃあないけどね》
と、なればもてないわけがない。
婚約者や彼女が居て当たり前なのだ。
しかし、トオルさんはきっぱりと告げてくれた。
「い、居ませんよ、そんな人は!」
「え? ほ、本当に?」
「本当です! で、でもリンちゃんこそ! カッコいいイケメンの彼氏が居るんじゃない?」
「わ、私は……」
また口ごもりながら、
「私も! そんな人は居ません」
言い切ろうとした瞬間。
怖ろしく真剣な表情で、副長レーヌ子爵、否、トオルさんが言う。
「お、俺、勇気を出すよ! も、もしリンちゃんに、というかフルールさんに彼氏が居ても絶対にあきらめないから!」
……よ、良かったぁ!!!
トオルさんに『想い人』は居なかった。
運命の再会を果たした私リンが愛し、愛される事が出来るのだ。
そして、何と!
告白もされてしまった。
トオルさんと相思相愛になれるなんて、夢みたい。
安堵し、脱力した私の口から、思わず本音が出た。
「よ、良かった」
「え? 良かったって?」
ああ、トオルさん、確認をしたいんだ。
私の言葉の意味を、
そして本当の気持ちを!
しっかりと私の気持ちに応えてくれたトオルさんへ……
今度はストレートに私から愛を伝えよう。
「だって……私はトオルさんが大好き。全く同じ事を考えていたんですもの」
「ええええっ!!!」
他の席で談笑するカップルが、驚いて注目するほど……
トオルさんは、またも、大声を出していたのである。
【大門寺トオルの告白⑩】
7時の集合まで時間がなかったので……
俺とリンちゃんはお互いの現状と気持ちを確かめあった後……
この異世界へ来た経緯のみ、極めて簡単に話して集合場所へ戻って来た。
でも、これでもう安心。
余裕を持って、食事会へは臨める。
幸せの足音は確実に聞こえているから……
まあ、あまり仲良くべったりで帰還すると、バレバレでしらけてしまう。
なので残念ながら、リンちゃんとは怪しまれないよう別々に戻った。
……という事で午後7時、レストラン『探索《クエスト》』個室、宝剣の間。
今日の食事会という名の自由お見合い、すなわち実質的な合コンは、
俺の後輩『赤い流星』ことアラン・ベルクール騎士爵が手配した。
改めて言えば、お相手は創世神様に仕える聖女様達。
その中に、運命の再会を果たした相思相愛である俺の彼女フルール、
すなわち異世界転移した『リンちゃん』も居た。
聖女様達は、全員明るい。
可愛い笑顔が素敵である。
中でも俺から見て、ダントツ一番は当然リンちゃんなのだが。
「今晩わ~」
「今晩わ!」
「宜しくね!」
「あの人……恰好良い」
聖女様達は元気良く挨拶をして来たり、ぽつりと呟く子も居た。
ここでアランが、「そっ」と俺へ耳打ちする。
やはり……念押しだった。
「クリスさん、度々申しわけない。最初の取り決め通り、ジェローム隊長をしっかりサポートしてください。それと乾杯以降の司会も宜しくお願い致します」
「了解、任せてくれ」
当然、俺は「打てば響け」の返事を戻した。
さてさて、今夜のメンツは男4人に女4人。
アランの指示で、男女各4人ずつ並列、男と女が対面になるように向かい合う。
通常は爵位、職級、年齢等を考慮し、席順を決める。
今回俺はジェロームさんのフォローを頼まれた。
なので、違和感なく一番上座にジェロームさん、俺、アラン、リュカの順に座った。
また会が終わるまでに、全員が話せるようにもするのが、このような会の常識。
一定の時間が経てば、男子のみが席を時計回りに移動するのだ。
暗黙の了解なのだが、念の為、全員へ伝えておく。
もしもファーストインプレッションで、お互いに意識したりとか、
既に思惑があったしても、以上の仕切りに例外は認められない。
改めて見やれば……
リンちゃんが、俺の真向かいに座ったのでホッとする。
だが、今後の男子軍団の動向にはじゅうぶん注意しなければならない。
ジェローム隊長やアランが、魅力的なフルールさん、否!
リンちゃんへアプローチする可能性だってあるし、全く気を抜けない。
最初は……自己紹介からである。
幹事同士は知り合いだから、当然お互いのフルネームを知ってはいる。
だが、他の参加者は最初、ファーストネームと職業のみ名乗る。
話が弾んで親しくなったら、初めてフルネームと詳しい素性を教え合うのが、
これまた、異世界合コンのローカルルールなのだ。
「ジェ、ジェロームだ。お、王都騎士隊の隊長を務めている、今回は全員が俺の部下なので名前だけ名乗らせる」
「クリスです」
「アランです」
「リュカで~す!」
男性陣の紹介が終了し、続いて女性陣である。
「シュザンヌです! 創世神様にお仕えする聖女をやっています。こちらも全員聖女だから名前だけ言いますね」
「フルールよ」
「ジョルジェットです!」
「……ステファニー」
おお!
やはりというか!
シュザンヌさんを始めとして、タイプはそれぞれ違うが、全員可愛い。
俺も、リンちゃんが居なければ、絶対目移りするところだ。
そして少し驚いた。
間違いない!
彼女を王宮の晩さん会で何度か見かけた事がある。
何と!
枢機卿の孫娘ステファニー殿《・》が居るではないか!
どうして?
と、思ったが……
よくよく考えれば、こちらにも公爵閣下の御曹司ジェローム様《・》が居る。
何か、事情があるに違いないが、下手に詮索などするのは野暮だ。
自己紹介が終わると、当然ながら乾杯をする。
店の方も心得ていて、冷えたエールのジョッキが出て来るタイミングは、バッチリである。
ちなみに、この世界では、魔力で冷やせる冷蔵庫が普及している。
なので、かつての地球の中世西洋と違い、食材の鮮度は抜群でとても美味しい。
飲み物は冷蔵庫で冷やすのは勿論、店専属の水属性魔法使いが居て、
キンキンに冷やした飲み物を出してくれる。
挨拶後に、乾杯の音頭を取るのは幹事の役目である。
今回は、男性陣の幹事役であるアランだ。
乾杯以降は、俺が仕切りを頼まれている。
「では! 今夜の素敵な出会いを祝して! 貴女達、聖女の美しさに乾杯!」
うっわ~
さすがは、イケメン騎士。
不器用な俺なら、絶対に無理!
アランは気障《きざ》な台詞《セリフ》を平気で言い切った。
でも、カッコいいから、全然嫌味に聞こえないのが凄い。
「「「「「「「乾杯!」」」」」」」
カッチーン!
コーン!
コン!
陶器製のマグカップが、軽くぶつけられる乾いた音が鳴り響く。
さあ、いよいよ合コン……否、食事会の開始だ。
フォローを頼まれた右横のジェロームさんを、俺はそっと見た。
何となく、表情が硬い。
挨拶の時も、緊張して噛んでいたし、少々心配だ。
ジェロームさんの真向かいは、シュザンヌさんである。
長いさらさらの金髪を、ポニーテールにした綺麗な碧眼の女性。
少し冷たい雰囲気もあるが、顔立ちは整っている。
胸もそこそこあってスタイルも良く、正統派の美人と言えるだろう。
そして……
まともに聞いたら「殺される」ので、絶対にそんな事はしないが……
シュザンヌさんはおおよそ30歳といったところ。
俺は再び、ジェロームさんを見る。
髪はシュザンヌさんと同じ金髪でさっぱりとした短髪。
彫りが深く濃い顔立ち。
クラシックな2枚目タイプであり、体格もごつい。
鍛えぬいた、典型的な騎士という雰囲気だ。
もしシュザンヌさんとくっつけば、ホントお似合いのカップルなのだが……
でも……
さっきから気になっているが……
ジェロームさんは、物腰までがやけにぎこちない。
俺は、何となく嫌な予感がしたのである。
【相坂リンの告白⑪】
午後7時、レストラン『探索《クエスト》』個室、宝剣の間……
今日の食事会という名の自由お見合い、すなわち実質的な合コンは、
私の後輩シスタージョルジエットが企画し手配した。
お相手は、王都の警備にあたる王都騎士隊の精鋭騎士様達である。
その中に、運命の再会を果たした私の彼氏騎士隊副長クリストフ・レーヌ子爵様、すなわち転生した『トオルさん』も居た。
騎士様達は、ひとりを除いて全員明るい。
爽やかな笑顔が素敵である。
中でも私から見て、最もイケメンでカッコいいのは、トオルさんなのだが。
ただ唯一、隊長のジェロームさんだけはとても生真面目って感じで、やや表情が硬め。
まあ、仕方がないかもしれない。
超が付く硬派で真面目だと、評判の御曹司だから。
少なくとも、女性にだらしない軟派の『チャラ男君』よりはず~っとマシである。
シスタージョルジエットによれば、アランさんがそういうタイプらしいのだが、彼の礼儀正しそうな物腰から、とてもそうは見えない。
さすがに……
シスタージョルジエットの思惑は、トオルさんへは言えなかった。
この飲み会の趣旨が、アランさんを徹底的に弾劾し、吊し上げて告発するモノだなんて……
う~、頭痛い。
ストレスで胃も痛くなりそう……
「こ、こんばんは!」
「聖女の皆さん、お忙しいところお時間を頂きありがとうございます」
「宜しくお願い致します」
「あの子……可愛いっ!」
騎士さん達は、挨拶をして来たり、嬉しそうに騒ぐ若い子も居た。
トオルさんはというと、やっぱりというか、
「お忙しいところをありがとう」と優しく労りの言葉をかけてくれた。
うん、素敵だ!
ここでシスタージョルジエットが、「そっ」と私へ耳打ちする。
やはり……念押しだった。
当然、例の件の……
「シスターフルール、準備は宜しいですか? 最初の取り決め通り、あいつの化けの皮をはぎますから、私をしっかりサポートしてください」
「は、はい……」
やっぱり気乗りがしない。
私は遠回しに「当惑」の返事を戻した。
だけど、怒りに燃えるシスタージョルジエットには全く伝わらないようだ。
あ~、また胃が痛くなる~。
さてさて、今夜のメンツは女4人に男4人。
シスタージョルジエットの指示で、男女各4人ずつ並列、女と男が対面になるように向かい合う。
通常は職級、年齢等を考慮し、席順を決める。
なので、シスターシュザンヌ、私、シスタージョルジエット、シスターステファニーの順に座った。
また会が終わるまでに、全員が話せるようにもするのが、このような会の常識。
一定の時間が経てば、男子のみが席を時計回りに移動する。
暗黙の了解なのだが、シスタージョルジエットからは、全員へ通達があった。
もしもファーストインプレッションで、お互いに意識したりとか、
既に思惑があったしても、以上の仕切りに例外は認められないらしい。
改めて見やれば……
トオルさんが、私の真向かいに座ったのでホッとする。
だが、今後の女子軍団の動向には重々注意しなければならない。
え? アランさん糾弾の件?
いえいえ、それもあるけど、違う件なのです。
そう、トオルさんの件。
すなわち、私以外のシスター達が、魅力的なクリスさん、否!
トオルさんへ熱くアプローチする可能性があるし、
『彼女』である私としては全く気を抜けないもの。
そんなこんなで、最初は……自己紹介からである。
幹事同士は知り合い。
だから、当然お互いのフルネームを知ってはいる。
しかし、他の参加者は最初、ファーストネームと職業のみ名乗る。
もしも話が弾んで親しくなったら、ここで初めてフルネームと詳しい素性を教え合うのが、異世界合コンのローカルルールらしい。
「ジェ、ジェロームだ。お、王都騎士隊の隊長を務めている、今回は全員が騎士。俺の部下なので名前だけ名乗らせる」
「クリスです」
「アランです」
「リュカで~す!」
男性陣の紹介が終了し、続いて女性陣である。
「シュザンヌです! 創世神様にお仕えする聖女をやっています。こちらも全員聖女だから名前だけ言いますね」
シスターシュザンヌから目で促され、私が続く。
「フルールよ」
そして同じく、他のふたりも、
「ジョルジェットです!」
「……ステファニー」
わぁ!
やっぱりというか!
改めて見やれば、ジェロームさんを始めとして、タイプはそれぞれ違う、
だが、騎士様は全員凛々しい。
私も、トオルさんが居なければ、目移りしていたかも!
自己紹介が終わると、乾杯に……
店の方も心得ている。
冷えたエールのジョッキが出て来るタイミングは、絶妙かも。
ちなみに、この異世界では、魔力で冷やせる冷蔵庫が普及しているという。
なので、かつての地球の中世西洋と違い、食材の鮮度は抜群でとても美味しい。
これ、ラノベで言う『ご都合主義』って事かしら?
飲み物は冷蔵庫で冷やすのは勿論、店専属の水属性魔法使いが居て、
驚くほど冷やした飲み物を出してくれる。
挨拶後に、乾杯の音頭を取るのは男性幹事の役目。
今回は、アランさんである。
「では! 今夜の素敵な出会いを祝して! 貴女達、聖女の美しさに乾杯!」
うっわ~。
さすがは、イケメン騎士。
きざなセリフも違和感が全くない。
さあ、乾杯だ。
「「「「「「「乾杯!」」」」」」」
カッチーン!
コーン!
コン!
陶器製のマグカップが、軽くぶつけられる乾いた音が鳴り響く。
さあ、いよいよ合コン……否、食事会の開始である。
私は左横のシスタージョルジエットを、そっと見た。
一見可愛い笑顔なのだが、やはり表情が硬い。
少々心配、否、大いに心配。
シスタージョルジエットの真向かいに座るのは、彼女の『標的』アランさんである。
彼が言った乾杯の音頭を聞き、まずは透き通るような美声に驚いた。
まるで一流歌手のようだ。
もしも、こんな声で甘く愛をささやかれたら、女子はたまらない。
加えて、さらさらの美しい金髪に碧眼。
端整な顔立ちは、女子にもてもてなのも凄く良く分かる。
片やシスタージョルジエットだって、女性から見ても魅力的。
もしもふたりがくっつけば、とてもお似合いのカップルなのだが……
ふたりを見守る私は、何となく嫌な予感がしたのである。
【大門寺トオルの告白⑪】
騎士隊の任務中とは全く雰囲気が違うジェロームさん。
いつもは毅然として、勇猛果敢、大胆不敵……
そんな素敵な言葉を、そのまま人に具現化したような、
何者にも臆さないナイスガイなのに……
妙齢の女子に囲まれ、ここまで硬い雰囲気になるとは……
「こんばんわっ!」
つらつらと、そんな事を考えているうちに、
真向かいの聖女様から声がかかった。
声をかけて来たのはフルールさんこと……リンちゃんである。
先ほどカフェで行った打合せ通り、
俺と彼女はさりげなく『初対面』を装っていた。
「こんばんわ、フルールさん!」
「こんばんわ! ええっと、クリスさんって、もしかして愛称ですか?」
「ええ、本名はクリストフ、クリストフ・レーヌです」
「そうなんだ! この出会いってもしや運命なのかしら? うふふふふ」
ああ、リンちゃん、ダメよ、ダメ。
いきなり、そんなにフレンドリーじゃ……
運命の出会いを遂げて、とっても嬉しいのは理解出来るけど……
傍《はた》から見たら、凄く不自然極まりない。
俺達が『特別な関係』だって、ばれてしまう。
でも、まあ良いか……ばれたって。
後で適当にいいわけすればOK。
俺だって、嬉しくてたまらないし、天にも昇りたい気持ちだ。
仲が良いのを見せつければ、逆に『恋敵』への牽制になるやもしれぬ。
と、都合の良い事をつらつら考えていたら、
リンちゃんが元気よく挨拶して来た。
「私、シスターフルール、本名はフルール・ボードレール! 宜しくね」
「はい、宜しくお願いします」
「うふふ……私、もっともっとクリスさんの事を知りたいわ」
「俺もさ!」
前世地球の合コン同様……
男女間の会話が盛り上がったところで、
次の飲み物を頼むのが、この異世界合コンの常道である。
そして、次の飲み物も、大体決まっている。
この世界の女子は乾杯したエールよりも、断然ワインの方を好むからだ。
当然、事前確認は必須だ。
「フルールさん、飲み物頼もうか? ワイン?」
「はい! 白ワインが大好きです! うんと冷やしたの!」
あはは、リンちゃん、異世界転移しても好みが全く変わっていない。
相変わらず笑顔が可愛いなっ!
ここで俺は、右側のジェロームさんを見た。
……駄目だ!
硬くなるどころか、完全に固まってる。
「ええっと! ジェロームさん?」
「ななな、いきなり何だ?」
うわ!
このうろたえよう、どうしたのさ、隊長!
いつもの貴方らしく、しっかりしてくださいよう!
まあ、良いか。
仕方がない、ぐだぐだ言っても。
それより早速、フォローしなければ。
「俺がジェロームさんとシュザンヌさんの飲み物も、一緒にオーダーしますよ」
「う、うむ!」
「なので、ジェロームさん、シュザンヌさんへ、何が飲みたいのか、聞いて頂けますか」
「はぁ? 何故だ?」
「え?」
「彼女の杯には、まだあんなにエールが残っているぞ。勿体ない!」
おいおい、駄目だ!
この人……本当に……
いや、そんな事を言っては、いかん。
この俺が……しっかりフォローするんだった。
よし、ここで新たな作戦だ。
憑依したクリスの硬派なイメージは完全に崩壊するが、背に腹は代えられぬ。
俺はわざと、おどけた口調で言う。
まるで道化師のように。
「じゃあ、シュザンヌさんの残ったエール、俺が貰っちゃおうかなぁ?」
「わぁ! クリスさんったら! 駄目、浮気しちゃあ」
お!
ここで、いきなり突っ込みが入った。
突っ込んだのは、リンちゃん?
ちょっと、怖い目で、俺の事を睨んでいる。
「それって、シスターシュザンヌと間接キッスという事になるでしょう? いきなり浮気はダメダメ! 私のエールを飲んでね!」
おう、そう来たか!
普通に駄目なのか、またはリンちゃんも気遣ってくれたのかは微妙だ。
しかし、こういうフォローはとても助かる。
よし!
切り返しは、こうだ!
「じゃあ、俺はフルールさんのエールを飲みます。だから、ジェロームさんもシュザンヌさんのエールを貰って下さい。間接キッスで!」
「やった!」
「うふふ……」
息がばっちり合って、リンちゃんは、ガッツポーズ。
そしてシュザンヌさんも、初めて笑顔を見せた。
どうやらジェロームさんとの会話が、全く弾んでいなかったようだから。
とりあえず作戦は成功だ!
しかし!
想定外の裏切者が現れたのだ。
それは当人のジェロームさん!
「いや! 俺は赤の他人が口をつけたエールなど、万が一の事を考えたら飲めん! どうしたんだ、クリス! いつものお前らしくないぞ!」
ああ!
いつものお前らしくないぞって!?
おいおいおい!
何、言ってるんだよ!
ジェロームさんたら、空気読めよ!
思いっきり盛り下がるじゃあないか!
万が一何かあったら、
治癒専門の聖女様が目の前にいらっしゃるじゃないですか?
「…………」
案の定、シュザンヌさんは白けた表情になり、
リンちゃんも大袈裟に肩を竦めた。
これは、まずい!
非常にまずい!
いわば、緊急事態だ。
俺は、左横に居るアランを見た。
少しでもフォローしてくれればありがたいもの。
すると……
は?
こいつ!
もう対面の聖女様と、甘い雰囲気に入っている。
素早い!
常人の10倍の速度で、女子を口説いて落とす。
さすが『赤い流星』!!!
「なぁ、アラン」
俺は、小声で呼び掛ける。
しかし!
アランは完全スルー、完全無視だ。
しかたなく音量アップ。
「おい、アラン」
「……何ですか?」
俺が再び呼ぶと、アランは俺へ向かって、とても不機嫌そうな顔を向けて来た。
そうか!
やはりアランの、今夜の『獲物』はジョルジェットさんなんだ。
こいつがこれ以上怒ったら、ヤバイ予感がする。
でも、臆してはいられない。
想定外の緊急事態なのだから。
「このままでは、ジェロームさんがヤバイ。すべりまくってオミットされちまう」
「はぁ? 副長が何とかしてくださいよ。だから最初に頼んだでしょう?」
いや、さすがにそれは……無茶振りだ。
ここはふたりの『合わせ技』でいかないと、ジェロームさんを説得出来ない。
「アラン、頼む。お前からも俺のいう事を無条件で聞いてくれるよう、隊長へお願いしてくれ。そうして貰えば後は上手くやる」
俺の言葉を聞き、切実な表情を見たアランは、
渋々という感じで頷いたのであった。
【相坂リンの告白⑫】
見つめ合うシスタージョルジエットとアランさん。
果たして、どうなってしまうのか?
先行きを考えると不安しかない。
トオルさんと再会出来たのは、凄く嬉しいけど……
大きな不安が過る。
そんな事をつらつらと考えていて、
ふとトオルさんを見やれば、彼も何だか不安そうな面持ちだ。
もしやシスタージョルジエットの思惑がバレた?
……と、思ったら違った。
トオルさんの視線は隊長のジェロームさんへ向いていたから。
ええっと、ジェロームさんって硬派と聞いていたけど、
それ以上に女性に対して『奥手』みたい。
雰囲気が暗い……否、硬い。
ジェロームさんがそうだから、対面のシスターシュザンヌの雰囲気もぎこちない。
話は全く弾んでいないようだ。
困っているらしいトオルさんを、
ここは私がフォローしよう。
「こんばんわっ!」
私は元気よく、トオルさんへ挨拶をした。
先ほど話したカフェで打合せをして、
私と彼はさりげなく『初対面』を装っている。
「こんばんわ、フルールさん!」
「こんばんわ! ええっと、クリスさんって、もしかして愛称ですか?」
「ええ、本名はクリストフ、クリストフ・レーヌです」
「そうなんだ! この出会いって運命なのかしら? うふふふふ」
ああ、失敗!
つい嬉しくなって調子に乗り過ぎた。
見やれば私のノロケを聞いたトオルさんが困った顔をしている。
いきなり、そんなにフレンドリーじゃいけないよって顔してる……
ごめんね、トオルさん。
運命の再会を遂げて、とっても嬉しいの。
でも傍から見たら、不自然。
私達が『特別な関係』だって、ばれてしまうよね?
でも、まあ良いか……ばれたって。
何とでも言い訳できそうだし。
私は、嬉しくてたまらないし、
うん!
ここは、気持ち良くちゃんと挨拶。
もっと私本来の、
元気印の明るいキャラをアピールしよう。
そうしよう。
「私、シスターフルール、本名はフルール・ボードレール! 宜しくね」
「はい、宜しくお願いします」
「うふふ……私、もっとクリスさんの事を知りたいわ」
「俺もさ!」
男女間の会話が盛り上がったところで、
次の飲み物を頼むのが、この異世界合コンの常道って聞いている。
これって、前世の合コンと一緒。
そして、私が飲みたいモノも、決まっている。
乾杯したエールよりも、断然ワインの方が好き。
このような時、トオルさんは本当に気配り上手、勘も良い。
「フルールさん、飲み物頼もうか? ワイン?」
と聞いて来た。
私は、打てば響けと返事をする。
つい嬉しくて笑顔になる。
「はい! 白ワインが大好きです! うんと冷やしたの!」
ここでトオルさんは、右側のジェロームさんを見た。
つい私も同じくジェロームさんを見たけれど
硬くなるどころか、完全に固まってる。
シスターシュザンヌを見れば……
こっちもまずい、しらけ切ってる。
これは本当にまずい。
って感じでトオルさんが呼びかける。
「ええっと! ジェロームさん?」
「ななな、いきなり何だ?」
「ジェロームさんとシュザンヌさんの飲み物も、一緒にオーダーしますよ。シュザンヌさんへ、何が飲みたいのか、聞いてみて下さい」
おお、トオルさん、ナイスフォロー。
だがしかし!
「はぁ? 何故だ? 彼女の杯には、まだあんなにエールが残っているぞ。勿体ない!」
ああ、ジェロームさんって……本当に鈍い、気が利かない人。
部下のトオルさんがこんなに気を遣っているのに!
と、やきもきしていたら、
トオルさんが何かひらめいたみたい。
「じゃあ、シュザンヌさんの残ったエール、俺が貰っちゃおうかなぁ?」
わあ!
ショック!
クリスさんの硬派なイメージが台無し。
まるで道化役のようなおどけた物言い。
それより、この提案は私的に超NG!
絶対に阻止しなければ!
「わぁ! クリスさんったら! 駄目、浮気しちゃあ」
自分でも分かる。
私は少し怒ってる。
トオルさんが、他の子が飲んだエールをなんて!
ダメダメ!
「それって、シスターシュザンヌと間接キッスという事になるでしょう? いきなり浮気はダメダメ! 私のエールを飲んでね!」
と、言えばトオルさんが『名案』で切り返して来る。
「じゃあ、俺はフルールさんのエールを飲みます。だから、ジェロームさんもシュザンヌさんのエールを貰って下さい。間接キッスで!」
ああ、素敵!
さっすが、トオルさん!
思わず、喜びの声が出る。
「やった!」
「うふふ……」
トオルさんとは、息がばっちり合ってるって感じる。
私は、勝利のガッツポーズ。
チラ見すればシスターシュザンヌも、初めて笑顔を見せている。
よっし!
作戦は大成功!
しかし!
意外な裏切者が現れた。
それはジェロームさん!
「いや! 俺は赤の他人が口をつけたエールなど飲めん! どうしたんだ、クリス! いつものお前らしくないぞ!」
えええええっ!?
この人、何言ってるのよ!
ねぇ、ジェロームさ~ん、空気読んでくださ~い!
部屋がパキパキ凍るくらい、凄い『大寒波』が来てしまうわ!
「…………」
案の定、シスターシュザンヌはとっても白けた顔付きに、
私も肩をすくめた。
トオルさんは、横に居るアランさんをちらっと見た。
困り果て、『救援』を求めるみたい。
そういえば、と私は思い出した。
こちらも大が付く問題が残っていたって。
シスタージョルジエットは?
不俱戴天の敵? アランさんとは、どうなったのかしら。
こっちが『大寒波襲来』だったら、
もしかして……
『憎悪の嵐』が吹き荒れていないかしら、怖い!
私が、おそるおそる見やれば……
何と!
驚きの光景が展開されていた。
仲睦まじく語り合う、もろ恋人みたいな……
シスタージョルジエットとアランさんふたりの姿があった!
は?
何!?
さっきまでの話とちが~う!
全然違う!!
シスタージョルジエットったら、
アランさんと凄く良い雰囲気になっちゃってる!?
一体、どうしたの?
わけが分からない私は、戸惑い混乱してしまったのである。
【大門寺トオルの告白⑫】
「緊急事態だ!」と、
困り切った俺が発した救援要請を何とか受けてくれたアランであったが……
俺に対して従順な、いつもの奴の態度とは全く違う。
これまた嫌な予感がしたが、心配していても事態は好転しない。
当事者ジェロームさんも入れ、相談しなければならないが、
さすがにリンちゃん達、聖女様の前で作戦会議を行うわけにはいかない。
「俺達、ちょっと、トイレ行って来ま~す」
席を外す為、俺はまたも、おどけて宣言する。
ああ、俺は硬派キャラから完全におとぼけキャラに変貌だ。
それにしても、3人一度にトイレへ立つなんて……
あまりにも不自然過ぎる。
だが、幸い女性陣は深く追求せず、笑顔で見送ってくれた。
俺から離席を切り出したのは、ジェロームさんもアランも
そのような事が言えるキャラではないからだ。
『オトボケキャラ』といえば……
こんな時、一番年下の後輩のリュカがフォローしてくれれば、
全くいう事はないのだが……
奴は最近合コンにおいて、
マイペースまっしぐらの、『困ったちゃんキャラ』に変貌する。
そう!
今夜もだ!
あれだけ、諭したのに……
俺との『約束』などすっかり忘れている。
先輩3人の様子など全く気にしてはおらず、フォローなど一切しない、
自分の幸福のみを追い求める、『罪深い男』になっていたのだ。
これでは、どちらが先輩なのか、分かったものじゃない。
だが、神様は居る。
リュカは聖女様の中では、血統書付きのお嬢様、枢機卿の孫娘、
最年少のステファニー殿(推定20歳)に目を付け、
先ほどから必死に口説いている。
だが、対面に座る彼女から、
「リュカなど全く好みじゃない!」という反発オーラがばりばり出ている。
まともに相手にして貰えず、適当にあしらわれているようだ。
それを見て、ちょっとだけ溜飲《りゅういん》が下がった。
そんなこんなで……リュカを残し、俺達3人はトイレに向かう。
でも頑ななジェロームさんの『教育』などに、時間をかけてはいられない。
俺がそっと見ていると、相変わらずアランの機嫌がすこぶる悪いから。
勝負事には、流れと決め時のタイミングがある。
それを無理矢理中断させた俺とジェロームさんは……
アランからしてみれば、とんでもない『妨害者』だということになる。
『赤い流星』の怒りは尤もなのだ。
しかし、ジェロームさんは相変わらず、『空気読み人知らず』……である。
「おい、クリス。一体何だ? 急に中座して。女性達に悪いではないか」
あ、あの……ジェロームさん、一体、何を仰っているのでしょうか?
場がしらけた、原因を作っているのは……貴方! ……なのですよ。
アランも、俺と同じ思いらしい……
こんなジェロームさんの『寝惚け言葉』を聞いて、
怒りがMAXに達しようとしていた。
「寝言は寝てから言え!」 と、憤怒の顔に書いてある。
もう怒りの限界という感じで、ジャンさんの頬が、ぷるぷると震え出した。
正直言って怖い!
そして、凄い怒りのあまり、能面のように無表情になってしまったジャンさん。
抑揚のない口調で言う。
「隊長……」
「おお、何だ?」
「改めて、お聞きしましょうか。今夜のセッティングをしたのは、一体、誰でしょう?」
アランの口調だけは冷静だ。
しかしその口からは、
今にも竜の息が吐き出されそうな恐ろしい雰囲気が漂っている。
しかし、ジェロームさんは、全く分かっていない。
アランの怒りと、その原因を……
「そりゃ、お前さ、アラン」
「結構! では、ここまでの経過は、認識していますよね?」
ここで、ジェロームさんが、ふいっと目をそらし、「ぽつり」と言う。
「ああ、お前がさ、男の数が足りないから、ぜひ、来てくれと頼んで……」
その瞬間。
とうとう、アランの様子が一変した。
普段、明るく朗らかな青年は、
『女性』という餌をお預けになった『飢える狼』へと変身したのだ。
「おい! 違う! 断じて違うだろぉ!」
え?
おい?
敬語じゃなく、ため口?
それもだろって!?
寸止め、手加減なし、
本気度100%の暴言が、さく裂だ!
ああ、一旦怒ったら、上司にも容赦がないんだ、こいつは。
今更ながら、アランの本性が分かって来たぞ。
しかしジェロームさんも、部下からこのような口の利き方をされ、当然怒るかと思いきや違った。
今回の件では、アランに対し、弱みがあるのだろう。
意外にも、ひたすら低姿勢なのである。
「わ、分かった、アラン! じょ、冗談だよ」
「…………」
「俺がぜひ、連れて行って欲しいと、お前に頼んだのだ」
「だったら、隊長! 約束してください、副長の指示に、言う事には絶対に従うと!」
そう言うと、アランは俺を指差した。
「僕は副長へ、隊長のサポートを頼みました。不器用な僕よりも、ずっと適任だと思ったからです」
はい~?
不器用な……僕?
んな、馬鹿な!!!
俺は思わず、アランの顔を、まじまじと見つめてしまった。
だって!
彼は、ヴァレンタイン王都騎士隊勤務の隊士、アラン・ベルクール様だよ。
愛用の赤い革鎧が似合う伊達男で、
『赤い流星』というふたつ名を持つ、超有名人だよ。
常人の10倍の速度《スピード》で、女の子を落とせる恋の達人なんだよ!!!
その彼が不器用???
しかしアランは、俺の無遠慮な視線など完全スルー。
平然と、話を進めている。
「最近知りましたが、実は副長って、こういう宴会の達人です」
「え? クリスがか?」
「はい! 僕なんかより女子との会話に慣れていて気配りが出来る方です。羨ましい限りなんです」
あはは!
嘘くさい!
でまかせにもほどがある。
俺は思わず苦笑いしそうになった。
だが、頑張って表情が出ないよう、何とか押し止めた。
このような時に平気で笑うほど、俺は『空気読み人知らず』ではない。
アランは怒った後に、困惑顔となる。
上司のジェロームさんに対し、懇願していると言っても過言ではない。
「隊長、良いですか? 今夜の僕は自分の事で精一杯なんです。素直に副長のサポートを受け、頑張って下さい」
「で、でもさ、クリスったら、とんでもないぜ」
「とんでもない? どこがですか?」
「女性の飲みかけのエールを飲むとか言うし、俺にも飲めって、強引に勧めるんだ」
ダンっ!
みししっ……
凄い音がしたのは……
アランが思い切り、トイレの壁を叩いた音だ。
あまりの威力に、壁には無数の亀裂が走る。
当然、ジェロームさんは吃驚した。
「わっ!? ア、アラン、ななな、何だよ?」
アランの顔は、またもや一切の感情を表さない、能面のようになっている。
こ、怖い!!!
「隊長、騎士の精神を言ってみて下さい」
「何だよ! 上司に向かって偉そうに!」
「良いから!」
「分かったよ! 忠誠、公正、勇気、武芸、慈愛、寛容、礼節、そして奉仕という精神だろう?」
「正解! 加えて年配者、女性、子供に対して親切であれ! これも常識ですよね。では困った女性がそんなに飲めないよ~、というエールを代わりに飲んでさしあげる行為のどこがいけないのですか! 残ったエールを無駄に捨てろ! というのですか? 勿体無い!」
ああ、凄い!
怒ってはいても、アランの話は理路整然としている。
その上、立て板に水。
これは、俺もぜひ見習いたい。
案の定、ジェロームさんは、虚を衝かれたようになる。
「う!?」
「これは騎士の誓いのうち、奉仕の精神そのものです。副長はこの場で、しっかりその精神を発揮したのですよ。実に見事じゃあないですか」
やっぱりアランは口が立つ。
ジェロームさんは、ずっと押されっ放しだ。
「ぐうう……」
話し始めてもう5分が経った。
アランは、そろそろ頃合だと見たようである。
「この事ひとつ取っても、副長の判断は的確です。今夜の隊長をきっと幸せにしてくれます。さあ、僕の話は終わりです、今夜は副長の指示に一切従う! 分かりましたね?」
有無を言わさない、アランの一気呵成な『指導』に対し、
ジェロームさんは仕方なく頷くしかなかったのである。
【相坂リンの告白⑬】
「俺達、ちょっと、トイレ行って来ま~す」
トオルさんは、またも、おどけて宣言した。
事前にクリスさんは硬派キャラで通っていたけど……
トオルさんが憑依して? 完全におとぼけキャラへと変わってしまった。
まあ、私はトオルさんが好きだから問題はないけれど……
それにしても、3人一度にトイレへ立つなんて……
あまりにも不自然過ぎる。
でも、深く追求しても仕方がない、場の雰囲気を壊さない為には、笑顔で見送るしかない。
でもさっきからひそひそ話していたから。
何となく想像はつく。
原因のひとつはシスターシュザンヌの対面に座った隊長のジェロームさんだと思う。
先ほどの話ではないけれど、ジェロームさんこそ、硬派と言って良いタイプ。
私はあまり詳しくはないが……
硬派とは武骨で我が道を行くというイメージがある。
トオルさんのように相手の好みや服装に気を遣ったりする人とは、真逆って感じかな。
さっきの『ワイン事件』でもそうだ。
トオルさんは場の雰囲気を盛り上げようと、一生懸命気を遣っていたのに……
ジェロームさんは全く無視、同席した女性がどう感じ思うのか、考えようとはしなかった。
結果、シスターシュザンヌはしょんぼりし、元気を失くしてしまった。
ジェロームさんに憧れていた分、幻滅も大きかったのだろう。
今回の食事会を結構楽しみにしてたようだから、とても気の毒だ。
それにあんな人が隊長では、クリスさん、否、トオルさんだって可哀そう。
つい同情してしまった。
そしてもうひとり。
不可解な行動をしているのが、シスタージョルジエット。
アランさんを懲らしめようと、あれだけ息巻いていたのに……
憎き彼? とずっと熱心に話し込んでいた。
私はやっぱりと思う。
多分、アランさんは見た目に反して、凄く真面目な方なのでは?
話し方や物腰から、少なくとも軽くはないし、女性を弄ぶようにはまるで見えない。
まあ、いきなり言い争いして大爆発という感じにはならなくてホッとした。
あとは……
若手騎士のリュカさんは、シスターステファニーが気に入ったらしい。
でも、シスターステファニーは理想が高い。
その上、年上が好みだとも言っていたっけ。
だから若いリュカさんをまともに相手にしていない。
それに多分、彼女は面食いだから、ジャストなタイプはアランさんか、
まさか!
トオルさん!?
運命の再会を遂げた事で、浮かれていた私はすっかり油断していた。
もしもシスターステファニーがクリスさんことトオルさんを気に入り、
万が一? 交際を申し込みでもしたら……
マズイ!
今居る異世界は爵位もあり、前世日本とは大違い、完全な身分社会。
参加している自由お見合いみたいな、身分の差を越えた愛を見つけようみたいな風潮は最近発生したもの……
なんたって、シスターステファニーの祖父は公爵たる創世神教会の枢機卿、アンドレ・ブレヴァル閣下。
対して、私フルールの父はしがない男爵。
一般社会の中では、男爵だって立派な貴族なのだが、さすがに公爵閣下と比べれば、身分の差は歴然としている。
教会における力関係の絡みだって、当然あるから絶対に強い事は言えない……
私とトオルさんが愛し愛されを主張したって、力技の前では引き下がるしかないだろう……
片やトオルさんが憑依したクリスさんも子爵だから、抵抗しても結果は推して知るべし。
「はぁ~あ」
余計な想像力が働いた私は、思わず大きなため息をついていたのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「大丈夫ですか、シスターフルール」
「え?」
心配して声をかけてくれたのは、シスターシュザンヌだった。
どうやら……
私は暫しぼうっとしていたらしい。
後で言われたが、ためいきも何度も繰り返し、ついていたようだ。
でも……
このような時に、人間の真価って出る。
シスターシュザンヌは先ほどの一件で、自分がダメージを受けているはずなのに、私を案じてくれた。
はっきり言って、凄く嬉しかった。
これまでシスターシュザンヌとは特に親しくはなかったが、今後機会があれば、近しくなりたいと思った。
そして……
意外といったら、失礼だが……
「そうですよ、シスターフルール。いきなり元気がなくなりましたが、体調でもお悪いのですか?」
続いて声をかけてくれたのは、何と!
シスタージョルジエットだった。
「は、はい……大丈夫です……」
噛みながらも、返事をした私。
例の件がとても気になっていたので、良いタイミングと思い、改めてシスタージョルジエットを見つめた。
それもまじまじと……
すると!
おかしい?
あれだけアランさんへの怒りをにじませ、凶相《失礼!》になっていたシスタージョルジエットの顔付きが一変していた。
凶相どころか……瞳がうるうる……
これは、はっきりしている。
シスタージョルジエットは『恋する乙女』へと大変貌したのだ。
一体、何があったのだろう?
先ほど、シスタージョルジエットはアランさんと熱心に話し込んでいた。
その時に何を話したのか、聞けば、どうしてなのかが分かるだろう。
でも……何となく聞きにくい。
私はプレッシャーに負け、視線を落とした。
と、その時。
突き刺すような視線を感じた。
まさか!
と思いきや、そっと見やれば……
それは私を見つめる、シスターステファニーの冷たい視線だったのである。
【大門寺トオルの告白⑬】
話はついた!
とばかりに、アランは一礼すると、さっさと行ってしまう。
奴としては……
「今宵の限られた時間の中で、たった一秒たりとも無駄には出来ない!」
というのが本音であろう。
目標の確保に向けて……
アランは完全に、『猟師モード』へと入っているのだ。
しかしジェロームさんも、アランに続いて、「とことこ」歩き出そうとする。
「ジェロームさん!」
俺は、ジェロームさんを呼び止めた。
このまま、彼が宴席に戻っても、
「この人は絶対にまたやらかすぞ」
俺は、そう思ったのだ。
合コン慣れしていない、この御曹司へ……
もう少し、『刷り合せ』をしておかないと……いけない。
折角の会がぶち壊しとなる。
「何だよ、クリス。まだ用があるのか?」
あら、ジェロームさん。
少し居丈高だ。
もしかして……怒っているの?
どうやら、部下であるアランに、散々怒鳴られた怒りの矛先が、副長の俺へ向かっている?
でも、それは……逆恨みというものだ。
しかし、人間は感情の生き物。
理屈では分かっていても、正論通りに動けない場合も多々ある。
これでは、まずい。
ジェロームさんの事は、アランから重々頼まれたし、
今夜は楽しい夜と感じさせる責任がある。
『情けは人の為ならず』だ。
ジェロームさんだって、俺の気持ちを理解してくれれば、きっと感謝するはずだ。
俺がレーヌ子爵家当主として、王都騎士隊副長として……
今後、この異世界で生きて行く上で、カルパンティエ公爵家のラインは強力なツテとなる。
だから俺は、今宵ジェロームさんをケアしなくてはならない。
再び俺は、ジェロームさんに呼び掛けた。
騎士という、『軍人向け』の言い方である。
「ジェロームさん、席に戻る前に、対聖女の『作戦』を立てましょう」
「む? 対聖女の作戦?」
「はい! 聞いて頂けますか?」
「むう……作戦か……そう言われれば仕方がない。アランとの約束だもの、な」
ジェロームさんは、渋々と承知した。
「じゃあ、時間もないし質問します。ジェロームさんの今夜の本当の目的は何ですか?」
俺のいきなりの、ピンポイントな切り込みに、ジェロームさんは驚く。
だが、こうした方が手っ取り早いし、今回は悠長に話している時間も無い。
「も、目的だと!? クリス! 意外だ」
「何が意外なのですか?」
「お前がだ、今夜のお前はいつもとは全然違う。女性の事は勿論、他人の事情になど、一切干渉しない奴だったのに」
うわ!
怪しまれてる。
確かに元のクリスは、トオルのように『お節介』ではない。
まあ、いいや。
こう切り返そう。
「いや、赤の他人ならいざ知らず、隊長だからですよ」
「むう! そもそもお前にそんな事を話す必要があるのか?」
「ジェロームさん! アランとの、や・く・そ・く!」
「わ、分かったよ! ええと……今夜の目的はまず俺と趣味の合う、真面目で優しい、親しくなれそうな女性を探しに来たのさ」
「趣味の合う、真面目で優しい、親しくなれそうな女性? 本当ですか?」
「ああ、実に恥ずかしいが……本当だ」
暫しの沈黙……
俺は、ジェロームさんの『趣味』を勝手に想像していた。
「えっと……硬派なジェロームさんの趣味って、武道か、何かですか? もしくは鍛え上げられた筋肉を、鏡に映してムフフと喜ぶ、とか」
しかし、ジェロームさんは「違う!」と首を横に振った。
「何言ってる! 騎士にとって武道や乗馬は、趣味としてこなすどころか達人なのが常識! 同じ騎士のお前ならすぐに分かるだろうが!」
「はぁ、そうですか?」
「たわけ! 俺の趣味は武道ではないっ! 確かに鍛え上げられた、己の筋肉を鏡で見ると、大いに感動するが……」
げっ!
知らなかった!
この人ナル?
何か、あてずっぽうで言った嗜好が……当たってる?
でも武道じゃないとすると……肝心の趣味って、何だろう?
「ジェロームさん、ズバリお聞きします、貴方の趣味って何ですか?」
「…………」
俺が尋ねたら、ジェロームさんは無言で俯いてしまった。
何故か、答えない。
「ジェロームさん! 白状して下さいよ」
俺が促すと、ジェロームさんは少し顔を上げ、上目遣いにこちらを見た。
「クリス、けして笑わないと約束するか?」
「笑わないっす」
俺が約束したら、ジェロームさんは、遂に自分の趣味をカミングアウトする。
「じゃあ、言うぞ! おおお、お菓子作りだ! ああ、言ってしまったぁ!!!」
え?
騎士隊隊長の武骨なジェロームさんがお菓子作りを?
確かに、こっちこそ凄く意外だ。
俺は少しだけ、吃驚した。
「は? お菓子?」
「くぅ! わ、笑いたければ! わ、笑うが良い! 誇り高きカルパンティエ公爵家の嫡男である、この俺が! お、お菓子作りが趣味なのさぁ!」
「…………」
「ん? クリス、どうした? 笑わないのか?」
「いやぁ、笑わないっすよ。実に素敵じゃないですか」
現世の記憶がある俺は、特に違和感は覚えない。
「素敵? 何でだよ? ……お前の反応、変じゃね?」
じゃね? って……
逆に、訝しげな表情のジェロームさん。
いや、俺の反応は、全然おかしくない。
騎士である、貴方の口調の方が、変なのだ。
話を戻すと……
前世の俺がバレンタインフェアなど、百貨店で目撃した有名なパティシェは、殆ど外国人の男性だった。
目の前のジェロームさんが、もしそうでも全然おかしくはない。
と、なれば、作戦は決定だ!
「いや! 今迄敢えて言ってませんでしたが、俺も甘党ですからね」
「は? クリス、お前が甘党だと!」
「はい! 美味しいお菓子を貴女の為に! だなんて女性にとってはポイント高いと思いますよ。ようし、分かりました! 今夜はお菓子作戦で行きましょう!」
「そ、そうか! 俺の趣味を理解してくれた上に、作戦まで立ててくれるのか? お前は部下で後輩の域を遥かに超えた! 我が友よ!」
「我が友よ!」って……
どこぞの……太ったガキ大将かよ……
「俺の呼び方は、今迄通り気楽にクリスで構わないっす! でも、段々分かって来ました。ジェロームさん、真面目で優しい女性が良いって……もしかして、結構マジで、結婚相手を探していませんか?」
「おい! わ、分かるのか!? 実は父上が早く結婚しろとうるさくてな。だが見合い相手はつんけんしている上、俺の趣味を理解してくれそうな女性が全くと言っていいほど居なかった」
「それは辛いですね。実は俺もジェロームさんと同じなんですよ。真面目に結婚相手を探しているのです」
「え? クリスもか?」
「はい! 俺は結婚に対して真剣ですから。それにジェロームさんの、最初は同じ趣味からって……けして、一過性の付き合いではなく、同じ趣味の相手とじっくり、まじめに付き合って、徐々に仲を深めて行こうっていう考え方でしょう?」
「お、おおおおお!!! クリスっ! お前は本当に俺の心が分かっているぞ! 我が友よ! 俺の同志よ!!!」
がしっ!!!
「くわうっ!」
まるで、鶏が絞め殺されるような、苦痛の声をあげたのは……俺である。
ジェロームさんは俺をしっかり抱擁し、
その逞しい腕が、背中に「ぐわっ!」と食い込んでいたのであった。
【相坂リンの告白⑭】
まるで凍える氷の眼差し……
凄い目付きで私を見る、シスターステファニー。
私はとても嫌な予感がし、思わず目をそらした。
早くトオルさん達が席へ戻って来て欲しい……
そう願いながら。
でも、期待は虚しく、中々トオルさん達は戻っては来ない。
そのうち、シスターステファニーが立ち上がった気配がした。
案の定、私の席までやって来る。
彼女は、開口一番。
「シスターフルール、騎士様達が戻るまで、ちょっとお時間を頂けますか」
騎士様達が戻るまでって……
シスターステファニー、貴方の対面にはちゃんとリュカさんが座っているじゃない。
でもそんな私の心の声は、彼女には全く届かない。
「ちら」と見やれば、完全放置されたリュカさんが呆然としていた。
あ~あ……悲惨。
完全に撃沈って感じかも……
でも私だって人の事など言えない。
明日は我が身……かもしれないから。
仕方がない、覚悟を決めよう。
頷く私を促し、シスターステファニーは個室の片隅へと誘った。
私も仕方なく着いて行く。
そして……
「シスターフルール、折り入ってのお願いがあるのですが」
「折り入ってのお願い……ですか?」
うっわ!
ホントに、いや~な予感……
「はい! 単刀直入に申し上げます」
「は、はい……何でしょう?」
「お願いとは……私をフォローして頂きたいのです」
「フォロー?」
一瞬、戸惑った私だが、すぐ彼女の言う意味を知らされた。
「はい! ズバリ私はレーヌ子爵様が好みです。ぜひ親しい間柄になれればと思います」
やっぱり!
私の嫌な予感は当たった。
でもはっきり言って、そんな願いは断りたい。
絶対に、ごめん蒙りたい。
何故かと聞かれれば、こう言いたいのだ。
シスターステファニー、私を頼る貴女の気持ちは嬉しい。
だが、断る! と。
う~ん、私はやっぱりラノベの読み過ぎ。
こんな時でさえ、受け狙いで、あの有名なセリフが心にリフレインしてしまう。
でも断る理由を具体的に!
と、問われればはっきりとは言えない。
まさか私とトオルさんは転生者というか異世界転移者だなんて……
絶対に信じて貰えないし、ね。
それに一旦離れ離れとなったのに、運命の再会を果たしたなんて言ったら尚更。
即座に創世神教会付属病院へは運ばれるかもしれない。
もしもはっきりした理由を告げずに断れば、先ほどの懸念は現実となるやもしれない。
でも……
私はもう怖れない。
トオルさんとは運命の再会を遂げたのだから。
ベタな表現だけど、彼とは宿命の絆でつながっている。
そう、断言出来るから。
つらつら考えていた私に対し、シスターステファニーは怪訝な表情をする。
「どうかしましたか、シスターフルール」
いやいや、どうかしました、じゃない。
私はこんなにも悩んでいる。
でも……もう決めた!
きっぱり断ろう。
「ごめんなさい、シスターステファニー。貴方のご期待には沿えません」
「期待には沿えないとは? ……そういう事ですか?」
そういう事って、どういう事なのか……
私にはピッタリ確定出来ないけど……
多分、当たってる。
だからはっきりと返事をする。
「はい、シスターステファニーのご想像通りです」
「成る程! では……勝負です」
「勝負?」
「シスターフルール、私は貴女へ宣戦布告致します」
「宣戦布告?」
「はい! 私はどんな手を使ってもレーヌ子爵を振り向かせてみせますから」
うわ!
どんな手を使っても、ってこの子……
思わずシスターステファニーの姿が、
愛読したラノベの性悪な悪役令嬢にピタリと重なって来る。
先ほどいろいろと考えていた不安が、もしも現実になったとしたら……
シスターステファニーの祖父、枢機卿の命により……
私は多分、創世神教会には居られなくなる。
当然、聖女の身分は、はく奪されるだろう。
加えてフルールの父ボードレール男爵にも多大な迷惑をかけるかもしれない。
でも……私は愛を貫く。
いざとなれば、全てを捨ててトオルさんと一緒になる。
身分に縛られる貴族のクリスさんなら無理ゲーでも……
彼の心の中がトオルさんなら、私をけして見捨てたりはしない。
そんな確信が私の心をたっぷりと満たしている。
異世界にいきなり放り出され、
たったひとりきりの『ボッチ』だと思っていたけれど……
実は全然違っていた。
私には……
前世で巡り会った運命といえる、愛し愛してくれる人が居る!
この異世界でも、ちゃんと待っていてくれた!
「私も負けません」
はっきりと言い放った私のカウンター、
つまり『宣戦布告』を聞き、
シスターステファニーはその可憐な顔立ちを僅かに歪ませたのであった。