【大門寺トオルの告白⑦】

 バジル部長を『伯父』と呼んだ女性は、優しく微笑んでいる。
  
 でも部長を見て……
 どうして、いきなり逃げようとしたのだろう?
 
 まあ、いっか。
 細かい事は。

 と、俺がつらつら考えていたら、部長が彼女に何か囁き、改めて紹介してくれる。

「ちょうど良かった。紹介しよう、この子は私の姪フルールだ」

 部長に目くばせされた、彼女……フルールさんは俺に笑顔を向け、

「はじめまして! 私、フルール・ボードレールです。男爵ボードレールの娘でバジルの姪です。……職業は聖女です」

「こちらこそ、初めまして。もしかしたらバジル部長からご紹介があったようですが、改めて名乗ります。自分はクリストフ・レーヌです。爵位は子爵ですよ」

 俺もすかさず返事を戻した。

 へぇ!
 爽やかな第一印象。
 
 「はきはき」と元気な挨拶をする子だなと思う。
 この子……バジル部長の姪っ子さんなんだ。
 でも!
 か、可愛い!
 
 ええっと……
 フルールさん、身長は結構あって160㎝半ばくらいか。
 
 体型は「すらり」として足が長い。
 うっわ!
 華奢な身体に似合わない大きな胸。

 明るい栗色のロングヘア。
 切れ長の目に、綺麗な鳶色の瞳。
 目鼻立ちは、はっきりしていて端麗な美人。
 
 黒髪じゃないところを除けば、リンちゃんにとても良く似ている。
 笑うと目が垂れてしまう癒し系で、首を傾げる仕草も。
 それ以上に、声が凄くそっくりなんだ。

 俺がフルールさんに見とれているのに気が付き、バジル部長が悪戯っぽく笑う。
 
「ふふ、彼があの、クリストフ・レーヌ君だ」

 あの?
 あの、って……
 一体、何でしょう、部長。
 その意味ありげな笑いは?

 フルールさんも、微笑んで頷く。

「お噂はかねがね……」

 だから、その『噂』って何?
 凄く、気になるんですよ。
 
 俺がそんな心配をしていたら、バジル部長がフォローしてくれた。

「クリス君は男気にあふれ、誠実な上、優秀な騎士だぞと、よく姪に話していたのさ」

 ほっ……何だ。
 女子に声かけまくりな『超軽薄合コン野郎』と、
 陰口叩かれていなくて良かった。

 まあ、俺トオルと違い、硬派なクリスならそんな事は言われないか……
 俺が少し複雑な表情をしていたら、
 可笑しかったのかフルールさんは、

「うふふふ」

 と、口に手をあてた。

 ああ、!
 良いなぁ!
 
 フルールさんの屈託のない笑顔に、俺は癒される。
 笑うと、余計可愛い~

 でも、外人女子なのに、声も雰囲気も本当にリンちゃんそっくりだ。
 だから、フルールさんを見ると結構思い出して……辛い。
 折角忘れようとして、立ち直りかけた矢先だから。

 うん、ここは話題を変えよう。
 さっきから気になっていた事があるから。

「ええっと、レーヌ子爵様って、もしかして……あの有名な副長さん……」

「はい、副長をやってます。かしこまらず気楽にクリスと呼んで下さい。フルールさんは聖女って? じゃあ……もしかして、この後、宝剣の間で」

「はい! 食事会に参加します」

 おお、彼女は……
 フルールさんは食事会、否、合コンのメンバーじゃないか。

 じゃあ、彼氏居ない率がぐ~んとアップ?
 これは大が付くチャンスかもしれない。

 これってもしかして運命の出会い?
 リンちゃんと離れ離れになった俺へ、この異世界の神・創世神様の加護が与えられた!?
 
 本当に、こんなラッキーはそうない。
 例えは正しくないかもしれないが…… 
 捨てる神あれば拾う神ありって言うじゃない。

 ありがたい!
 俺と懇意なバジル部長の姪というのも、
 フルールさんとの距離を縮め、親しくなるのに、追い風となるやもしれない。

 これは……
 リンちゃんと会った時よりもず~っと手応えがあるかも。

 うん!
 完全に吹っ切れた!
 リンちゃんよ、俺の事を忘れてどこかの誰かと幸せになってくれと切に願う。
 
 それに俺自身だってそう。
 ブラック企業勤務で、貧乏リーマンの大門寺トオルより、
 子爵家当主で将来有望な王都騎士副長クリストフ・レーヌの方が断然、有望株だもの。

 こうなるとフルールさんとの話は弾みに弾む。
 
 でも……ひとつ心配になった。

 硬派なイメージで通ってるクリスが、
 トオルみたいなナンパな男というイメージに変わっても良いのかと。

 つらつら俺が考えていたその時。

「じゃあ私はこれで……後はふたりで話すと良い」

 バジル部長は俺とフルールさんの橋渡しをした後、
 満足そうな笑みを浮かべ、そそくさと去ってしまった。

 おお、さすが部長!
 凄く気が利く。

 他人の幸せをアシストするばかりで、全くついていない人生の典型だった俺だけど……
 今、追い風がびゅんびゅん吹いている。
 この風に……乗るしかない!

 もしくは雨降って地固まるかな?

 フルールさんの癒し笑顔を見ながら……
 俺は来るべき幸せを確信していたのであった。