【大門寺トオルの告白⑥】

 俺とリュカが入った、レストラン『探索《クエスト》』の店内は、ほぼ満員だった。
 ざっくり見て……
 男女トータル200名以上は、居るかもしれない。

 事前に立食形式と聞いていた通り椅子は無い。
 会場の数か所に大きなテーブルがあり、これまた大きな皿に盛られた、美味そうな料理がいくつも置かれていた。
 様々な酒が取り揃えられた充実したバーコーナーもあり、エールとワインは飲み放題らしい。

 そして、何と!
 片隅に小規模な楽隊が居て、厳《おごそ》かな音楽を流している。
 何となく地球のクラシックに似た音楽だ。

 この異業種交流会は、やはり凄い。
 観察すると様々な身分、そして職業を持つ人々が混在している。
 
 え?
 皆、普段着じゃなく、ドレスアップしているのに何故分かるのかって?
 それは、雰囲気というか、バッチリおめかしはしていても、
 衣服に身分と職業が何気なく反映されているから分かるのだ。
 
 俺達のような騎士は勿論、貴族、商人、職人という堅気な人達、
 冒険者らしい戦士や俺達のような魔法使いも大勢居る。

 更に言えば、商人でも商家の裕福な者から、行商に近い人と千差万別。
 魔法使いだって、真っ当な雰囲気の者から、インチキ錬金術や死霊術でもやっているんじゃないかという、うさんくさく怪しげな奴も大勢居た。

 使用人っぽい人も結構居て、これは完全に転職希望か、就活だろう。
 執事やメイドっぽい人は、見れば、はっきり分かるもの。

 パトロン探しらしき者も多い。
 画家や吟遊詩人などの芸術系から、愛人系らしき美女まで様々であった。

 うわ!
 まさに、これって混沌《カオス》!

 リュカは、独特な雰囲気に圧倒され、呆然としている。
 俺はリラックスしろというように、奴の肩をポンと叩く。

「じゃあ、リュカ……俺達もここで、一旦解散だな」

「え? 僕、副長を、フォローしなくて良いんですか?」

 俺の物言いを聞き、リュカは更にポカンとした。
 口を大きく開けて、締まりがない。
 
 心の中で俺は苦笑する。

 ほら、これから可愛い女子を口説くのなら、
 そのだらけ顔、もう少し何とかしろって。

 先程までは鞭《むち》でビシバシ、リュカを叩いていたから……
 ここからは、少しだけ飴《あめ》をやろう。
 俺は優しく諭しながら、しっかりと約束させる。

「いや、お互い別行動にしよう……折角のパーティだ。がっつりチャンスを掴め」

「がっつり? チャ、チャンスをっすか!」

「ああ、良い出会いがあるといいな。但しこの後の食事会では、俺と一緒にジェローム隊長をしっかりフォローしろよ」

 俺がそう言うと、リュカの表情が一変した。
 きらきらと目を輝かせている。
 前向きな、健康男子の顔だ。

「は、はいっ! 了解っす! 副長、恩に着ます」
 
「ははは、お互いに頑張ろう……あと、時間は厳守だぞ。良いか? 7時少し前に宝剣の間だからな」

「はいっ!」

 最後に時間を念押しすると、リュカは直立不動で「びしっ!」と敬礼し、人混みへ突入したのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 リュカと別れた俺は……
 人混みの中を縫うように歩いて行く。
 皮肉だが、こんな時は騎士隊における日ごろの訓練が役に立つ。
 ほら、魔物の攻撃を避ける訓練とかさ。

 うろうろして来たら……腹が減って来た。
 でもこの後食事会があるから、満腹はNG。
 
 とりあえず……
 小腹レベルで、喉を潤そう。
 
 取り皿に料理を適当に盛って、ひと口、ふた口食べ、ワインを「きゅっ!」と飲んだ。

 アランから聞いている通りなら……
 そろそろ主催者であるフィリップ殿下が、開催宣言を行う筈である。

 そんな事を考えていたら、いきなり音楽が変わった。
 
 俺が注目していると……
 会場の一番奥に設けられている演壇に、
 30歳くらいの王族男性――フィリップ殿下が「のしのし」歩いて登場する。
 
 フィリップ殿下のご挨拶は、簡潔なものであった。
 こんな事は絶対に表立っては言えないが……
 長い挨拶が、顰蹙《ひんしゅく》を買うとご存じらしい。

 挨拶の内容といえば、
「良い出会いをして、親睦を深め、ヴァレンタイン王国の発展に寄与するように」
という話であり、終了直後に、乾杯の音頭が入った。
 
 俺もワイングラスで乾杯を行い、終わった後で、皆と一緒に拍手をした。
 
 「王家のお陰でこのような素晴らしい会が催されるのだぞ!」
 というアピール&デモンストレーションなのだろう。

 アランによれば、この『イベント』が終了後、『帰る』のは自由らしい。
 この後に食事会もあるし、当然俺は帰ったりせず、『活動』を本格化させる。

 こんな会合の場合、コツがある。
 まず、自分の友人か、知人を探すのだ。
 親しければベストだが、最悪、顔見知りでもOK。
 
 何故ならば、友人の友人は何とやら……
 プロフ説明が簡略化出来る。
 それに知人の紹介ならではの、メリットがある。
 初対面の人にも、身元がはっきりしていると、そこそこ安心して貰えるのだ。

 だが今夜の会合は王家主催の特別版だし、俺は初参加である。
 簡単に、知り合いなど、会えるわけがない。

 暫く歩いて周囲をきょろきょろ見たが……
 当然、知らない人ばかりだ。
 
 しかし!
 ふと見た先に、見覚えのある人が目に入った。
 思わず声が出る。

「ええっ? 何故ここに?」

「あ?」

 声を掛けられた相手も、吃驚して俺を見ている。
 同じ若い奴なら、俺もこんなに驚かない。
 
 周囲が若者だらけの会で、浮きまくる50歳過ぎの中年男が、目を丸くしているから。

 そこに居たのは……
 俺が騎士隊幹部として親交の深い、冒険者ギルドの総務部長バジル・ケーリオ氏であった。