◇◇◇◇◇
三十分前。
鎌倉駅前を通り過ぎ、小町通りへと足を踏み入れて私は歩いていた。
ここ、武家の古都・鎌倉は、海あり山ありの景勝地。鎌倉五山を始めとする寺社が点在する一方、綺麗な街並みが広がり、評判の良い飲食店も集まっている。少し足を延ばせば海にも道はつながっていて、穏やかな海原を眺め、潮の香りを吸い込みに行けるのだ。私も小さい頃、鎌倉の中でも海がすぐ見える方に住んでいたから分かるけれど、本当に海との距離が近い。
私が今歩いているのは、その鎌倉の中心地。鶴岡八幡宮を中心に、参拝客や観光客でにぎわうエリアだ。細い道には点々と魅力的な店が散らばっている。一歩道を行けば古い洋館や教会がさりげなく佇んでいたりもする、和洋折衷な雰囲気の街並みだ。
中でも、鎌倉駅東口の鳥居から鶴岡八幡宮までまっすぐに続いている小町通りは、鎌倉の有名な観光土産通りとしても知られている道だ。
「うう、美味しそうな匂いがする」
そして、食べ歩きのできるものを売っている店が多い道でもある。
パリパリ生地にレモンの酸味とシュガーのざくざくした歯触りがたまらないレモンシュガークレープが有名な、生地を主役にした珍しいクレープ屋さん。
苦さが抑えられるぎりぎりまで抹茶を贅沢に練りこんだ、濃厚な抹茶ソフトを売っている店に、焦がしバターの匂いがほんのり漂ってくるスイーツの店。
食べ歩きができる店はもちろん、和柄の和傘やかんざしの専門店、ポップでかわいらしいデザインの文具が売っている雑貨店、何種類もの手ぬぐいが店頭にずらりと並べられた人気の手ぬぐい専門店と、人気店がずらりとひしめき合うこの通りは常に人が絶えない。
普段人通りが多いところは苦手な私も、この道は好きでよく通る。
ここを通り抜けた先にそびえ立つ鶴岡八幡宮の鳥居をくぐりぬけ、別世界に入り込んだようになるあの感覚も好きだし、そして何より、この道を歩く人たちは本当に幸せに満ち溢れている気がするからだ。
それにここで買えるスイーツは女子にも人気で、仕事で疲れて帰ってくるお母さんのためによく立ち寄って買っていた。
今日も食べ歩きを楽しんでいる人たちを眺めつつ、私は先を急ぐ。
この先を抜けると鶴岡八幡宮の鳥居だ。周りを圧倒するスケールの鳥居の前を通り過ぎ、私はさらにその奥の通りへと歩いていく。
さっきまでとは打って変わって静かな通りを、鎌倉を横断する滑川の方角へ歩いて五分ほど。
見覚えのある、小さな洋館が見えてくる。薄茶色のレンガ壁に、緩やかに斜めの線を描くレンガ色の屋根。ステンドグラスを嵌めこんだアンティーク調のどっしりとしたドアの目の前に、私は立ち尽くした。
三十分前。
鎌倉駅前を通り過ぎ、小町通りへと足を踏み入れて私は歩いていた。
ここ、武家の古都・鎌倉は、海あり山ありの景勝地。鎌倉五山を始めとする寺社が点在する一方、綺麗な街並みが広がり、評判の良い飲食店も集まっている。少し足を延ばせば海にも道はつながっていて、穏やかな海原を眺め、潮の香りを吸い込みに行けるのだ。私も小さい頃、鎌倉の中でも海がすぐ見える方に住んでいたから分かるけれど、本当に海との距離が近い。
私が今歩いているのは、その鎌倉の中心地。鶴岡八幡宮を中心に、参拝客や観光客でにぎわうエリアだ。細い道には点々と魅力的な店が散らばっている。一歩道を行けば古い洋館や教会がさりげなく佇んでいたりもする、和洋折衷な雰囲気の街並みだ。
中でも、鎌倉駅東口の鳥居から鶴岡八幡宮までまっすぐに続いている小町通りは、鎌倉の有名な観光土産通りとしても知られている道だ。
「うう、美味しそうな匂いがする」
そして、食べ歩きのできるものを売っている店が多い道でもある。
パリパリ生地にレモンの酸味とシュガーのざくざくした歯触りがたまらないレモンシュガークレープが有名な、生地を主役にした珍しいクレープ屋さん。
苦さが抑えられるぎりぎりまで抹茶を贅沢に練りこんだ、濃厚な抹茶ソフトを売っている店に、焦がしバターの匂いがほんのり漂ってくるスイーツの店。
食べ歩きができる店はもちろん、和柄の和傘やかんざしの専門店、ポップでかわいらしいデザインの文具が売っている雑貨店、何種類もの手ぬぐいが店頭にずらりと並べられた人気の手ぬぐい専門店と、人気店がずらりとひしめき合うこの通りは常に人が絶えない。
普段人通りが多いところは苦手な私も、この道は好きでよく通る。
ここを通り抜けた先にそびえ立つ鶴岡八幡宮の鳥居をくぐりぬけ、別世界に入り込んだようになるあの感覚も好きだし、そして何より、この道を歩く人たちは本当に幸せに満ち溢れている気がするからだ。
それにここで買えるスイーツは女子にも人気で、仕事で疲れて帰ってくるお母さんのためによく立ち寄って買っていた。
今日も食べ歩きを楽しんでいる人たちを眺めつつ、私は先を急ぐ。
この先を抜けると鶴岡八幡宮の鳥居だ。周りを圧倒するスケールの鳥居の前を通り過ぎ、私はさらにその奥の通りへと歩いていく。
さっきまでとは打って変わって静かな通りを、鎌倉を横断する滑川の方角へ歩いて五分ほど。
見覚えのある、小さな洋館が見えてくる。薄茶色のレンガ壁に、緩やかに斜めの線を描くレンガ色の屋根。ステンドグラスを嵌めこんだアンティーク調のどっしりとしたドアの目の前に、私は立ち尽くした。