「ごめん、本当に・・・。嘘だから、あんな話し。あいつ、前に俺と付き合っていたんだけど。全く反応しないから、ふられたんだ。結婚したいと言われたが、これでは無理だと言われた。プライドが高い奴だから、あんなこと言ったんだと思う。だから、もう気にするな」

「・・・私・・・」

 なにか言いたくても、涙で声が詰まってしまって空は何も言えなくなった。

「もういいよ、何も言わなくて。ここに来てくれた、それだけで嬉しいから」

 よしよし、と空の頭を撫でてて良二は慰めた。


 そのまま良二は空を部屋に連れてきた。

 男の一人暮らしの部屋は若干散らかっている。
 
 急いでごみを片付けて綺麗にする良二。



「ごめん、ちらかってて。ここに、座ってて」

 リビングのソファーに空を座らせると、良二は手際よく暖かいココアを入れてくれた。

 黒いマグカップはいつも良二が使っているようだ。


 ココアを飲むと、空は少し落ち着いたようだ。


「ずっと、連絡が出来なくてごめんなさい。あまり、体調が良くなくて・・・」

「もういいよ、こうして会えたんだから」

「ずっと、話さなくちゃいけないと思っていて、話せない事がありました。それを言う前に、お別れすればいいかと思っていたのですが・・・」

 そっと、良二は空の手を握った。

 空の手はちょっと骨ばっていた。

 少し前より痩せた様な空を見ると、良二の胸は痛くなった。

「病気の事なら聞いた」

「え? 」

「河和先生は、俺の先輩だ。研修時代からずっとお世話になっている先生だ。久しぶりに休憩が一緒になってね。空との事を聞かれて、その時に話してくれたんだ。ごめん、医者なのに気が付かなくて」

「いいえ、話さなかったのは私ですから」

「俺は、空が病気でも気持ちは変わらない。一緒に、頑張ってゆきたいと思う」