「僕の担当患者だからね」

「担当患者? 」

「ああ、砂原空さん。彼女は先天性の心臓病を抱えているんだ。何度も手術を進めているが、確率の低い手術でね。この先、寒い時期になると、彼女は発作を起こしやすくなるから。早めに手術を受けて欲しいって言っているんだけどね」

(半年まって、それでも気持ちが変わらなかったら。・・・)


 空がそう言ったことを思いだした。


 今は5月。

 半年したら寒くなってくる。


 もしかして、空はその時期になったら別れるつもりだったのか?


 何も話してくれなかったし・・・。

「どうかしたのかい? 」

「え? はい? 」

「なんだか、随分驚いた顔をしているけど。もしかして、知らなかったのか? 」

「あ、はい・・・」

 幹夫はフッと小さく息をついた。

「そうか。やっぱり、彼女が悩んでいたのはそこだったんだ」

「悩んでいた? 」

「ああ。あんまり話してくれなかったが、手術を進めて何度目かの時だったよ。自分は生きていてもいいのかって、聞かれてね。理由を聞いたら、好きな人がいるけど。悲し思いをさせてしまうのが、怖いからって言っていたよ」

 
 言われてみれば、空はどこか一線を引ていて。

 ふと、何か思い詰めた様な目をして、すぐに笑っている空がいた。

 いつも背が高い事で断られると、空は話していた。


「あの、手術を受けなかったら彼女はどうなるんですか? 」

「まだハッキリとは言えないが、発作を繰り返していると。もう、10年生きていられるか判らないと思う。普通に生活していれば問題ないって言っても、生きている中ではどうしてもストレスは避けられない。ショックな事が重なると、当然、心臓には大きな負担がかかるからね」

「そうなんですね」