「先生との素敵な思い出に、わざと置いて行ったんです」

 そう答える空はちょっと恥ずかしそうな目をしていた。


 そんな空を見ると、良二は胸がキュンとなった。


「あ、あの…。もし良かったら、時間作ってもらえる? お礼がしたいから」

「お礼何てされる事、私してませんよ」

「いや、その。お礼じゃなくて…ただ、会いたいから…」

 
 空はニコッと笑った。


「いいんですか? 先生のような素敵な人が、私なんかと一緒にいて」

「なんで? 君のどこがいけないって言うんだ? 」

「いえ…。でも、先生がいいなら是非お願いします」

「有難う。じゃあ、これ…」


 ポケットからメモ用紙を取り出し、携帯番号を書いて空に渡す良二。


「これ俺の番号。いつでもいいから、連絡して。メールでも構わないから」

「はい…」

 メモを受けとると、空は嬉しそうに微笑んだ。


「必ず連絡します」

「ああ、待っているから」

「お仕事中なのに、わざわざ追いかけてきてくれて。有難うございます」

 みかけよりずっと気遣いが出来て、優しい空。

 そんな空に良二はまた胸がキュンとなった。



 去り行く空を見送りながら、良二は今まで感じたことがない感情が込みあがってきた。

 もしかして、これが本気の恋だと言うのだろうか? 

 この会えなかった一ヶ月が、すごく苦しくて。

 忘れて行ったシュシュを見るたびに、胸がキュンとして。


「あ…」

 空に返そうと、持っていたシュシュをまた手にしていることに気づいた良二。

「また会った時でいいか…」

 シュシュを見て小さく笑う良二。




 それから空から連絡があったのは、3日後だった。