12年前の話だった。
中学生の私が、ある女の子と出会った。
金髪で、生意気なお嬢さんだった。

その子の名前は【へミア】だった。

今まで出会った子とのは、だいたい一年で2、3回だけ会う。
遊んでるけど、別に深い感情を持てないと思う。
でも、ヘミアは、少なくても3年間ずっと私の側にいた。
しかも、今までの経験が違って、ヘミアの行動に干渉できないけど、ヘミアの感情や考え方もわかる。

彼女の嬉しさと悲しみも、私にも届ける。
あの頃、よく訳分からなく涙を流れたり笑ったりした。

当時の友達にへミアのことを話した。そして、ヘミアの物語(人生)を書いてみようという話が出た。私が見てきた事実と嘘を少し混ぜて書いたら、どこかの小説のように出来上がりました。

今思えば、ヘミアを呼んでも出てこなかったのもこんな時期だった。

何も気づかず調子に乗って、出来上がった小説を投稿サイトにもアップしてみた。ネットでわりといい評価もらった。ヘミアと遊ぶとこの小説永遠に書き続けると思った。

しかし、一ヶ月後、ヘミアがいなくなった。

小説のヒロインの名前もへミアにした。あの日から、【ヘミア】という名前は、私と仲良しの友達ではなく、私が書いた小説のキャラになってしまった。

どんなに呼んでも出てこなかった。
時間経っても、戻ってこなかった。

第三者に教えていけないなんだ…と初めて気づいた。

こんなこと起こったのは、私のせいだった。
あれ以降他の子と出会っても、他人に教えないようにした。

第三者に教えたら、消えてしまう。
書いてしまったら、会えなくなる。

「…みんな、一体どこに行っただろう。」
『さぁ。でもあれじゃない?それぞれの世界(パラコズム)にいるって。』
「それなら良いけど…」

まるで彼女の存在を抹殺したように。

『俺は消えないよ?』
「あの時の私も、ヘミアが消えるなんて思わなかった。」

そんなつもりではなかった。
ただ新しい体験だったので、思わず興奮してしまった。
今考えたら、あの頃のヘミアの顔、全然思い浮かばなかった。

「…私はね、ヘミアの姿を見えなくなった直後も、小説描き続けてみたよ。」
『え?そうなの?』
「うん。書いてみた。でも、パソコンの前に座ると頭真っ白になった。ヘミアの顔すら見えなくなり、ヘミアの体だけ小説に残されてるような感じだね…」

私は自分の手ヒラを見つめて喋ってる。

「自分の手でヘミアを殺したみたい。」
『ふーん。でも、あれ、ヘミアじゃないよね?』
「え?」

どういう意味なの?
混乱してる私を見て、蒼は言った。

『俺、あの小説読んだことないから間違えたかも。だって、あれ、嘘を混ぜて書いたでしょう。お前の性格なら、自分とヘミアの思い出を正直に書けないと思うけど?』

…蒼の言う通りだ

書かなかった。
書くわけない。

なんの根拠もないけど、自分のことを書いちゃうとなぜか他人に取られた気分になる。これは子供の頃からもそうだった。

『で、お前は、自分が書いたからヘミアの存在を他人に知らされた。そのせいでヘミアが消えてしまったじゃないかと思ったでしょう?』
「だって、あの可能性しか…」
『魔法や秘密を他人にバレたら効果ない…というやつでしょうか?あんなことは小説や漫画しかないよ。少なくともヘミアは魔法使いではない。』
「……」

『だから、お前が書いたのはヘミアじゃないよ。あの子はただ小説の登場人物だけだった。お前が書いて禁忌を破れた罰として、ヘミアが消えたなんて、そんな話じゃないと思ったよね。』
「…なら、ヘミアはきっと、私のこと耐えれないほど嫌いでしょう。」

思わず呟いて苦笑した。

『バカな話すんなよ。』
蒼は少し怒ってるように見える。

「でも、ヘミアが私の前に姿を消したのは事実だった。どんな理由でも、ヘミアが居なくなった結果は変わらない。」

あれから、ヘミアとの記憶すらうすくなった。
自分のカップを見つめて、昔のことがちょこちょこ頭に浮かんできた。
ただ、頭に浮かんできたのは彼女のことではない。

「蒼は魔法使いでいればいいなぁ…」
『凡人で悪いね。』

急に頭の中にある記憶の断片が流れてきた。

「…そういえば、昔もこんな話があったよね。ヘミアが居なくなって、ネットで友達作りのがハマってた。知らない人とチャットすると、なぜかヘミアと喋るように感じて、ついにハマった。あの時、蒼からよく怒られて、喧嘩もしたよね…」

子供の頃の私が、ネットの世界に夢中になってた。
忠告されても、何も入ってこなかった。

「それでね、感情を爆発させて、「だったら、ヘミアを返して!」と吐いた。あの時、蒼は真面目な目でこう言った。【ごめん、ぼくは魔法使いじゃないです。ですから、たとえそれが君のお願いでも…ヘミアを生き返さないです。】と真剣に言わ…」

顔上げたらすぐわかった。蒼は凄く不機嫌だ。

「どうしたの?急に、不機嫌な顔…」
『俺じゃないよ。』

あっ…やっちまった…
状況を察した私は自然に黙ったから、蒼は喋り続いてる。

『俺、ヘミアと会ったことないから、先の話聞いた瞬間に俺じゃないと気づいた。お前が以前ネットで他の人とチャットしてたのも初耳だ。そもそも、俺は自分のこと【ぼく】と言わん。』

普段なら、ちゃんと気をつけてるのに、
ヘミアの話をしたから気を緩めただろう。

蒼はダメ息した。
『 別に怒ってない。でも、お前だけ…俺をあの子と間違えないでほしい。』

目の前年拗ねてる蒼を見ると、やっぱ違いと感じる。

人生の中に、蒼という名前の人は二人しか会ってない。
一人はこの子供っぱい人だ。
もう一人は、子供の頃に知り合った子だった。

【蒼】は、ヘミアよりも先に私のそばにいた子だった。
しかし、蒼は他の子と比べて少し変な子だと思った。
なぜなら、蒼は他人と会話しないし、他の子とも交流がない。
昔からもずっと、私と話すだけだった。

【蒼】といる時だけ、私は自分で感情コントロールできる。
悲しい時に無理笑わなくてもいい。
楽しいことがあったらそのまま楽しんでいい。

もしも、これは推理小説だったら、絶対クレーム入るだろう。
実はあのキャラは双子だ!と書くと、
どんなトリックがあっても、この一瞬で台無しになっちゃう。
でも、世の中にこんな都合のいいことが起こる。

最初、私はてっきり同じ人物だと思ってた。

見た目から見ると、全く一緒だった。
ハーフでもないもに、顔立ちは外国人っぽい。
二人の瞳も薄いブルーだから、それでハーフだと見えるかしら?

でも、二人の声は少し違って、喋り方や言葉の使い方も違い。
昔、試しに好きな色や曲など聞いてみたら、答え全然違ってびっくりした。

蒼の記憶は、【蒼】と違うんだ。

彼にとって、私に関する一番古い記憶は彼から声かける日だった。
私にとって、その日は、初対面ではなく再会の日だった。

ヘミアの続き、【蒼】も二度と会えないと思った。
でも心のどこかに、消えるじゃなく、離れただけだと思ってた気がする。
別れではないから、私は大人しく【蒼】を待とうと思った。

だから、凄く嬉しかった。
やっと戻ってきたと思ったのに、彼が喋るとすぐ違和感を感じた。
目の前にいる人は、あの子ではなかった。
容姿が一緒なのに、別人だった。

結局、【蒼】もヘミアみたいに消えてしまった。