「私も伊勢に来る前は知らなかったんだけど、伊勢神宮って百二十五社の総称なんだって」

「……どういうこと?」


スマホを持ったまま、ポカンと口を開けた。


「今いるのが、伊勢神宮の内宮っていうところの門前町で、少し離れたところに外宮があってね。それ以外にも別宮(べつぐう)、摂社(せっしゃ)、末社(まっしゃ)、所管社(しょかんしゃ)なるものがあるんだよ」


なんだか複雑な話だ。そしてその難しそうな名前を、よくもまあ覚えているものだ。


「つまり、親戚がいっぱい的な?」
 

莉子の知識に感心しながら私なりの解釈で尋ねると、「そんな感じじゃないかなあ」と及第点をもらえた。


「お伊勢参りといえば、内宮と外宮を参拝するのが一般的なんだけど、それにも順番があって。外宮を先にお参りするのが昔からのならわしなんだって」

「ふーん。順番どおりに参らなかったらどうなるんだろ」

「神様が拗ねちゃうかもね」


ふと私が抱いた疑問に莉子はそんな冗談を返して、ふふっと笑った。

そういえば、夕方撮った写真の中にご当地デザインのマンホールがあったはずだ。あのマンホールに描かれていた浮世絵もお伊勢参りの様子なのだろうか。

莉子に聞いてみようとカメラロールを開いて、はたと動きを止めた。