「……なんだよ」
案の定、さらにイライラした様子で相手は睨んでくる。
当たり前の反応だ。この状況で笑われたら、反省しているようには到底見えない。
これ以上、向こうの怒りを買うわけにはいかない。ここはひとつ穏便に、大人の対応でいこう。
しかし、こうも思えてくる。
そもそも私はこの町並みの写真を撮りたかっただけ。センスの悪い看板が設置されていなかったら、ケチだってつけない。景観保護という意味では、むしろ相手のほうに非があるのではないだろうか。
「なんかあるなら言えよ」
黙っている私に、そう声がかけられる。
「いやあ、怒らせちゃうと思うので」
「今さらだろ」
確かに。
これまでの人生を振り返っても、こんな出会ってすぐの人をイラつかせたことはない。
相手は先ほどまでの不機嫌さが少し収まって、もはや呆れたような表情を浮かべている。
「……じゃあ、通行人の一意見として聞き流してください」
「だから、なんだよ」
失礼なことをした自覚はあるし、少しの常識は持ち合わせているつもりだ。ただ、失うものがなにもないという状況に陥ると、私は怖いものなしになるらしい。
「このダサい看板、外したほうがいいんじゃないですか?」
ブチッと血管が切れるような音が、閑静な住宅街に響いた。