スマホの画面の右下辺りに違和感を覚えて首を傾げる。
なんだか、この情緒あふれる景観にそぐわない蛍光色があるような……。
画面から視線を外して、自分の目でもう一度その違和感の正体を確かめる。
「なにあれ」
ざあっと風が吹いた。ぬくもりを含んだ柔らかな春の風だ。お茶の香りがかすかに鼻腔をくすぐる。
周りの木々が揺れたことで露わになったのは、蛍光イエローの看板だった。
「いやいやいや……」
近づいてみれば、その異質さはより際立つ。看板を設置しているのは、周りの家より少し広いお屋敷のようだけれど、草木が生い茂っていて手入れされている様子はない。
古くからの住宅が建ち並ぶ中、ツタのつたうブロック塀に取り付けられている蛍光イエローには、虹色のグラデーションの文字でこう書いてあった。
「〝神々よ、ここに集いたまえ〟って」
激やばじゃないか。
しかも、よく見るとその下には黒のマジックペンで【今春リニューアルオープン!】と、お世辞にも上手とは言えない手書きの文字まで添えられている。
「改装したようにはまったく見えない外観だけど。ていうか、ここはいったいなんなんだろ……怪しすぎる……」
じろじろ観察するのはよくないと思いつつ、ツッコミを入れずにはいられない。
「それにしても、びっくりするくらいセンスないなあ。これ伊勢の景観がどうのっていうより、どこに飾られていても悪目立ちしかしないでしょ。色も書体もキャッチコピーも、小学生がパソコンの授業で作ったみたいな感じだし。これだけダサいのができるって、逆に才能あるというか……」
「おい」
すぐ後ろから、低い声が聞こえた。