ツキヨミさんがすうっと瞳を閉じ、長い睫毛がくっきりと頬に影を作った。
一年半ほど前に、占いの館に行ったことがある。三十分で三千円。占いにしてはわりとリーズナブルな価格で、口コミ人気の高かった占い師さんに占ってもらった。そのときは私の悩みを相談しつつ占う感じで、会話がメインだったように思う。
しかしツキヨミさんはひとことも発することなく、じっと目をつむっていた。とても整った顔をしているツキヨミさんがそうしているだけで美しく、なんだか神秘的な空間ができあがったような気がする。
さすがは神様。三十分三千円の占い師さんと比べるまでもなく、この雰囲気だけでも信頼できそうだ。
慣れない感覚にソワソワしながら待っていれば、首から下げている勾玉がぽわっと一瞬光ったように見えた。
「……なるほど」
しばらくして、ツキヨミさんはゆっくりと目を開けた。
「ど、どうでしたか」
緊張しながら尋ねた私を横目に、ツキヨミさんはなぜか「拓実」と声をかける。
私が占ってもらっているのをカウンターの中から凝視していた拓実は、呼ばれたのが不思議だったのか首を傾げた。
「この者を、ここで雇うがいい」
予想だにしていない言葉だった。目が点になるとはまさにこのことだ。
「……はああ?」
拓実も驚いているのだろう。ワンテンポ遅れて不機嫌そうな声が聞こえた。
「こいつを雇えって、え、いや、普通に無理」
「わ、私だってここで拓実と働くなんて! ていうか、私は東京に家が――」
言いかけて、口をつぐんだ。
彼と同棲していた1LDKにこれ以上住むのは限界だった。心理的な面でも、経済的な面でも。
今さら会社に戻ることもできないし、新しい仕事も探さなくてはいけない。結婚資金として貯めていた二百万円だけで、家賃も高い東京の1LDKで生活していくのは厳しいだろう。