申し訳なさそうな表情を浮かべるツキヨミさんにそれ以上すがることもできなくて、私は拓実に視線を向けた。
「ど、……どうしてくれるの」
「お前が店の前で吐こうとしてたから、こうなったんだろ」
「いや、それは私が悪かったけど、自分が淹れたお茶に不思議な力が宿るって自覚があったなら水でも渡してくれたらよかったのに」
面倒を見てもらった人にこんな文句を言うのは失礼かもしれないが、この行き場のない気持ちを拓実以外のどこへぶつけたらいいのか分からない。
不穏な空気を察知したのだろう。カウンターの上を転がっているキュキュ丸たちが「キュキュッ」と心配そうに私たちの様子を窺っていた。
「過ぎたことを今さらどうこう言っても仕方ねえって。見えるようになったもんは見えるんだから」
「確かにそうかもしれないけど、なんでそんな悠長なのよお」
「うっせえな。これでもちょっとは反省してるっつうの」
バツが悪そうにそっぽを向きながら、拓実はぼそりと呟く。
過去を嘆いてもどうしようもない。それには一理あると思うものの、これからどう生活していけばいいのだろう。
もし街中で神様を見かけることがあったら、声をかけたほうがいいのだろうか。でも見えない人からしたら、道端でひとり挨拶をする二十五歳女性なんて違和感しかない。
だからといって、見えているのにスルーなんてしたらバチが当たりそうだ。というか、そもそも神様と普通の人間を見分けることができるのかな。
「……ふむ」
私の今後についてあれこれと思案していれば、ツキヨミさんが小さく頷いた。
「そなたが戸惑うのも当然だろう。自ら望んだわけでもない突然の変化であるからな」
私の心情を汲み取ってくれたようで、ツキヨミさんはそっと私に両手の平を向ける。
「手を貸して。少し占ってみよう」
「は、はい?」
唐突な申し出に困惑する。思わず聞き返すと、カウンターで拓実がこう補足した。
「ツキヨミさんは占いの神様としても知られてんだよ。月の満ち欠けで吉凶をみるって、どっかで聞いたことあるだろ」
「ああ、そうなんだ」
月と占いが結びつくのはなんとなくイメージがつく。夜の世界を司る神様って、そんなことができるんだ。
「それじゃあ、お願いします」
軽く頭を下げながらツキヨミさんに両手を差し出せば、きゅっと指先を握られる。信憑性があるのかどうかは分からないけれど、今はもう頼れそうなものすべてにすがりつきたかった。