妙に納得する私の左隣で、ツキヨミさんは腕組みをする。


「ならばそなたはなぜ、この者に茶を淹れたのだ」

「だって、客が全然来なくて暇だったし、二日酔い予防にはお茶が効果的って聞いたことあるし。つうか普通、こんなことになるとは思わねえだろ……」


問い詰めるような口調のツキヨミさんに、拓実は言い訳のような理由を並べた。

これまでの話をまとめると、私は拓実の淹れたお茶を飲んだことで神様が見えるようになってしまったらしい。

そんなことがあるのか、と信じられないような気持ちもあるけれど、拓実の反応に嘘はなさそうだ。あれだけ威勢のよかった拓実が自身の非を認めるような態度をとっているのだから。


「まあ、なんとなく話は理解しました」


初対面ながらに介抱し、一晩泊めてもらったという恩もある。これ以上の追及はしないでおこうと大人の対応をした私に、ツキヨミさんと拓実の視線が向いた。


「それで、これってあと何時間くらいで治りますかね?」


せっかくの傷心旅行だ。昨日、訪れることができなかった伊勢神宮に行きたい。莉子が教えてくれた通り、ちゃんと外宮からお参りして、時間があれば他の神社にも足を運ぼう。おはらい町でまた食べ歩きもしたい。

ここでタイムロスするのは惜しいような気がして、目安の時間を尋ねる。

そんな私の耳に入ってきたのは、ツキヨミさんの気まずそうな声だった。


「……そもそも、治るか分からぬ」

「えっ」


てっきりすぐ元通りになるものだと踏んでいたのに、ツキヨミさんは苦笑を浮かべる。


「え、わ、分からないってどういうことですか」


予想外の展開だ。慌てて立ち上がると、ガタンと椅子の音がする。それに驚いたのか、右隣にいたお塩ちゃんがカウンター席から去っていった。


「あの、ほら、戻す方法とかなにかあるんじゃないですか?」

「耳にしたことはあるが、心身共に多大な負担がかかる。その方法で確実に治るという保証もない。なにせ、拓実の茶で〝見える〟ようになった人間はそなた以外に存在せぬからな」


な、なんと……。そんな理不尽な話があっていいものだろうか。神様は全知全能だと思っていたけれど、そういうわけでもなかったらしい。