ツキヨミさんからは少しミステリアスなオーラを感じるものの、こういう仮装をした人間だと説明されたら、それはそれで納得できる。お塩ちゃんも意思の疎通ができるだけで、パッと見た感じ普通の猫との違いが分からない。キュキュ丸はまあ、今までに出会ったことのない不思議な生き物だと思うけれど……。
「そなた、疑っているのだな」
「えっ」
左隣からツキヨミさんの声がした。頭の中で考えていたことを読み取られたようで、ぎくりと肩が揺れる。
「無理もねえだろ。むしろ、すんなり受け入れられる人間のほうが珍しいって」
拓実はそう言ってグッと伸びをした。
自分のことでいっぱいいっぱいだったけれど、この状況的に拓実も〝見える〟タイプの人間ということか。いつから神様のことが見えるようになったのか純粋に知りたい気持ちもあるものの、まずはこうなった経緯を教えてほしい。
出してもらったお茶をひと口飲んでから、本題に入った。
「あの、ツキヨミさんたちが本当に神様だったとして、私はどうして突然〝見える〟ようになったの?」
「知らねえよ。なにか変なものでも食べたんじゃねえの?」
問いかけた私に、まるで他人事のように拓実は首を傾げる。
「……拓実」
それを咎めるような強い口調で呼びかけたのはツキヨミさんだった。
「そなたの淹れた茶を人間に出すなと申していたであろう」
「……あ」
カウンターの向こうで拓実が声を上げた。心当たりがあったらしく「そ、それは、その」と動揺しながら口をもごもごさせている。
「どういうことですか?」
いまいち話がつかめず、私はツキヨミさんに詳しい説明を求めた。
「拓実の淹れる茶には不思議な力が宿りやすいのだよ。それは飲んだ者の真の心を開き、良薬となる場合もあるのだが、いかんせん力が強すぎるのだ」
なにが起こるか分からないから凡人には飲ませるな。ツキヨミさんはそう忠告してきたのだという。
「我ら神々にとっては、ひと味違う楽しい茶なのだが……」
「だ、だから、茶屋も神様専用で営業するって決めたんだっつうの」
ため息をつきつつ額に手を当てたツキヨミさんに、拓実が口を挟む。
『神様専用』という言葉を聞いてふと思い出す。昨日見つけた蛍光イエローの看板には、確かに『神々よ、ここに集いたまえ』と虹色のグラデーションの文字が書かれていた。
怪しさ満点のダサい看板だったけれど、あのキャッチコピーにはなんの誇張もなかったということか。