そんな私に、拓実はまだなにか言いたげな表情を浮かべていたけれど、それを遮ったのは入り口近くに立ったままのイケメンだった。
「そのような話をしている場合ではないぞ」
「え?」
ただ事ではない雰囲気を醸し出しているイケメンの言葉に、首を傾げる。
すると、すぐ隣にいた拓実がワンテンポ遅れて「えっ」と困惑したように声を上げた。
その反応がどうにも不自然で、イケメンと拓実の顔を交互に見比べる。
……うん、どちらかといえばイケメンのほうが好みの顔つきだ。拓実はあっさりしすぎてタイプじゃない。
失礼なことを考えてひとり頷く私に「おい」と隣から声がかかる。
「お前、……見えてんのか」
なにかを確かめるような問いかけだった。
見えてるって、なにが? コンタクトかどうかって話? そうだとしたら私の視力は両目とも1.5だ。
答えようと口を開いたとき、「にゃあ」と鳴き声が聞こえた。
「あ、さっきの猫ちゃん」
首に小さな鈴をつけた白い子猫が、カウンターの向こうからひょっこりと姿を現す。
先ほどは逃げられたけれど、どうにか撫でることができないだろうか。
ゆっくりと手を伸ばしかければ、隣で拓実が「まじか」と呟いた。
「……〝しお江(え)〟のことも見えてんのかよ」
「しお江って、この子の名前?」
子猫にしては、なかなかに渋い名前だ。