どうしたのかな。ああ、ここに来たということは茶屋のお客さんか。用があるなら拓実だろう。


「すみません、今ちょっと拓実がどこにいるのか分からなくて」


この店のことをなにも知らず、顔も洗っていない私にはどうすることもできない。このお客さんの話し相手になるにしても、美容室で週に一回トリートメントをしてもらっているグレージュのロングヘアは、カールが取れてボサボサだ。人前に長時間出られるような姿ではない。

少し申し訳なさを感じつつ詫びれば、口を半開きにしたイケメンは、もう一度まばたきをしてから声を発した。


「……た、たた、大変であるぞ拓実ぃ!」


そんな叫びが店内に響く。近所から苦情が入っても言い逃れできない大きさだ。

奥の廊下まで届いていたようで、若草色の長暖簾の向こうからガタッと物音が聞こえた。


「なんだよ、こんな朝っぱらから」


くあ、とあくびをしながら現れたのはスウェット姿の拓実だった。たった今起きたのだろう。短い黒髪にはピョンと寝癖がついている。


「あ、あの、おはよう」


泊めてもらったお礼を伝えなくちゃ、と声をかければ、「あ?」としかめっ面が返ってきた。


「お前、ひでえ顔だな」

「そりゃ酔いつぶれて泣いて、化粧も落とさず寝たからね。その、昨日はご迷惑をおかけしました」

「本当だよ」


相変わらずの態度がちょっと気に障るものの、お世話になったことは間違いないのでへらりと笑っておく。