「うん?」


よく見てみると、それはシャボン玉のように透明で周りが虹色がかっている小さな丸の集団だった。一列になって、転がるように廊下の隅を移動している。「キュッキュッ」と高い音も聞こえてきた。


「……うーん?」


お酒と涙で目がやられているせいかな? なんだか不思議なものを見た気がする。

ゴシゴシと目元をこすると、まだ落とせていなかったアイシャドウのラメが手の甲についた。

ああ、なんだ。きっとさっきのは、このラメが私の視界に入ってきただけだろう。なるほど、なるほど。

ひとりで納得して、再び廊下を進む。なんとなく見覚えのあるような場所までやってきた。


「あ、暖簾」


若草色の長暖簾があった。確かあれは、お店のカウンターの奥にあったものと同じだ。

迷うことなく長暖簾をくぐると、昨夜も見た景色が目の前に広がった。ひとつ違うのは、店員側に立っているところだろう。

カウンターの中というのは魅力的だ。店の裏側を覗いているみたいで、つい観察してしまう。ふたつ並んだ大きなシンクにはまだ洗ってなさそうな茶器が置かれている。せめてものお礼に、あとで洗い物でもさせてもらおう。

そう決意して、小さく頷いたときだった。

カララ、と引き戸が開く音がした。


「やあ拓実、昨夜この店の前で泥酔していた人間をそなたは結局――」


反射的に顔を上げると、声の主とばっちり目が合う。

黒い着物に黒いベール。首から提げられているのは白に近い緑色をした勾玉で、ちらっとベールの下に見えた金色の髪飾りは月の形をしている。全身真っ黒の服装という点では拓実と合致しているけれど、さらりと伸びた銀色の髪が特徴的だ。

コスプレのような格好ではあるものの、安っぽさは感じられない。むしろとてつもなく高貴で、現実離れしているようにも見える。

なにより、透き通るような白い肌に、涼しげな切れ長の目。スッと通った鼻筋に、形のいい細い眉。まるで人間とは思えないレベルで整った顔立ちをしていた。


「え、すっごい美形」


思わずそう口にしてしまうほどのキラキラオーラを纏ったイケメンは、私と視線を合わせたまま、ぱちりとまばたきをした。