「親も気に入ってた相手だし、おじいちゃんおばあちゃんも結婚式をすごく楽しみにしてくれてたから、別れたこと言えなくて実家にも帰りづらいしさあ」
「それ、先延ばしにすればするほど面倒くさくなるやつじゃねえの」
口を挟む拓実に「そんなことは分かってるってばあ」と嘆きながら、カウンターに突っ伏す。
「うう、もう本当にどこで間違えたんだろうなあ……」
「あーはいはい。吐いたり歌ったり泣いたり、忙しいやつだな」
「忙しいやつで悪かったわねええ」
だいぶ酔っていたのだろう。
「……神様って、意地悪だ」
ふわふわする頭と、回らない呂律。そのあとも拓実に絡んだような気がするけれど、それ以上の記憶はまた残っていなかった。
* * *
「えーっと、ここは……」
翌朝。重たい瞼を開ければ、見慣れない天井が広がっていた。
むくりと起き上がって周りを見回す。どうやらここは、和室の客間のようだ。小花柄の布団がかけられている。
「なんとなく思い出してきた」
昨夜のおぼろげな記憶がよみがえる。拓実に絡んで泣き疲れて眠った私は結局、茶屋に泊めてもらったのだろう。
出会ったばかりの人の家に泊まるなんて、非常識にもほどがある。
申し訳なさを感じながら前髪をかき上げる。そのタイミングで化粧も落とさず寝てしまったことに気づき、「最悪だ」とため息が漏れた。